当社の中では「型化」がキーワードの一つだが、業務レベルだけではなく、提供サービスのレベルでも「型化」を意識している。
社内では「パッケージ型のコンサルティングサービス」と呼んでいるが、顧客の様々な課題やニーズに応じて、オーダーメイドなソリューションを提供するのではなく、特定の課題やニーズに限定して、ほぼ決まったソリューションを提供している。今日は当社がなぜ、オーダーメイド型ではなく、パッケージ型のコンサルティングサービスを提供しているのかを紹介したい。
オーダーメイド型とパッケージ型の違い
まずオーダーメイド型のサービスとパッケージ型のサービスの違いだが、スーツの世界に
フルオーダー
セミオーダー(イージーオーダー、パターンオーダー)
既製服
という分類がある。
フルオーダーでは、顧客に合わせてサイズやフィット感、色、柄、生地などを選び、世界に一つだけのスーツを作る。
逆に、既製服やセミオーダーのスーツでは、既にある見本服や型紙を微調整し、ある制限の中でなるべく顧客に合ったスーツを作ろうとする。
当社が「パッケージ型のコンサルティングサービス」と呼んでいるものも、フルオーダーではなく、既製服やセミオーダーの考え方に近い。つまり、まずベースとなるサービスの「型」を作り、それを微調整しながら、顧客にサービスを提供していく。
主力事業であるBtoB企業向けのマーケティング戦略・施策の立案コンサルティングは、サービス提供のプロセス、納品物、裏側のバックオフィス的な処理まで一連の業務を「型化」していて、淡々とそれを提供&改善し続ける体制ができあがりつつある。
最近、提供を開始した「営業組織の平準化コンサルティング」も『営業パーソンが増えてくると、人によって、提案内容や受注率、受注単価にバラツキが出る』という特定の課題に対して、商談のストーリー・営業資料・トークスクリプトを納品するサービスで、納品までに必要なサービス提供のプロセスを型化している。
そして、当社の営業資料はもとより、2回目以降の商談で使う提案資料、さらには提案中の見込み顧客への返信メール/リマインドメールの文案までNotion内にテンプレートが存在し、それを微修正して送るようになっている。
以前は当社でも、顧客のBtoBマーケティングにまつわる様々な課題に対して、広告運用、サイト制作、LP改善など、様々なソリューションをオーダーメイド型で提供していた時期があった。しかし、大きく2つの理由でオーダーメイド型のサービス提供を辞めることになった。
オーダーメイド型を辞めた理由①:顧客満足度のボラティリティが大きい
1つ目のきっかけが、自分が所属する業界への解像度を上げる目的で、各種コンサルティング会社に発注したことがある人たちにインタビューを実施したことだった。インタビューした結果、ざっくり
外資系戦略コンサルティング会社が提供するようなオーダーメイド型のサービスは、さすがに優秀な人は優秀で満足度は高いが、人に依存する要素は否めず、PRJの成否や顧客満足度のボラティリティが大きい
領域特化のコンサルティング会社で、提供サービスが型化されている場合、人に依存しないため、PRJの成否や顧客満足度のボラティリティが小さい
という傾向があった。
上述のインタビューを通じて、「最も聡明で最も優秀な人たちがやっても、オーダーメイド型のサービスで常にPRJを成功させ、高い顧客満足度を得るのは難しい」という気づきを得て、特定の領域に絞ったコンサルティングサービスに集中することを決めた。
※オーダーメイド型のサービスを提供するコンサルティング会社にも「このマニュアルを持って新卒を現場に行かせれば、特定産業の赤字企業をV字回復できる」パッケージもあるようだが、主に戦略や総合コンサルティング会社に入社する人たちは、様々な業界の複雑な問題を解きたい傾向があり、パッケージ型のサービスはあまり人気がないらしい。
オーダーメイド型を辞めた理由②:個別性へのアジャストの難しさ
もう一つの理由は様々な案件に関わる中で「そもそもオーダーメイド型のサービス提供は、誰がやっても難しいのではないか」という仮説を持ったことにある。
当たり前だが、クライアント企業が置かれている社内・社外の状況、ビジネスモデル、組織文化、担当者のスキルなどは千差万別で、一つとして同じ案件はない。毎回の案件に何らかの個別性があり、その個別性に対して、担当コンサルタントは都度アジャストしなければならない。
この「個別性へのアジャスト」は多くの人たちが思っているよりも難易度が高い。例えば、クライアント企業のマーケティング担当者のスキルや性格、バックグラウンドによってすら、担当コンサルタントが取るべきスタンスは変わるからだ。
コンサルティングのような無形サービスで、扱うテーマの抽象度や複雑性が高ければ高いほど、「個別性へのアジャスト」の難易度は上がる。
そして、会社として「個別性へのアジャスト」を的確に行おうとしたとき、『コンサルタントのアジャストスキルを上げること』に注力してしまいがちだが、本来有効なのは
顧客セグメントを絞り込む
顧客の解くべき課題を限定する
課題に対する提供サービスを限定する
アジャストが必要な回数をそもそも減らす(つまり、それぞれの企業と深く長く付き合う。高単価、高満足度のプロジェクトを少数こなしている状態)
などだ。
逆に
顧客セグメントが複数存在する
顧客の解くべき課題が限定されておらず、複数存在する
課題に対する提供サービスが複数存在する
アジャストが必要な回数が多い(つまり、それぞれの企業と浅く、短く付き合う。低単価、低満足度のプロジェクトを多数こなしている状態)
では、毎回の「個別性へのアジャスト」を精度高く行うことは極めて難しい。無理ゲーというか、もはや人類未踏の地だろう。
前職を含めると10年近くマーケティングのコンサルティング業務に関わってきて、『「個別性へのアジャスト」はスキルを上げるだけでは解けない問題だ』という結論に達した。
最近では、自社のターゲット・セグメントに合致しない案件は再現性高く成果をお返しできないためにお断りし、当社のコンサルティングプロセスがマッチする顧客にのみサービスを提供するようにしている。
「型化」の具体例を一部紹介
最後にどんなことを型化しているかを紹介したい。
例えば、PRJ開始前にコミュニケーションツール、請求、契約関連のやり取り方法をすり合わせるシート。確認の抜け漏れが発生したり、都度確認にならないようにスプレッドシードでテンプレートを用意している。
当然、担当コンサルタントのToDoリストもテンプレート化している。細かいレベルでは「PRJ頻出語の辞書登録」というToDoがあり、顧客の会社名やサービス名をGoogle 日本語入力などに辞書登録し、タイプ時間の短縮やタイプミスを減らすようにしている。
マーケティング戦略・施策の立案プロジェクトでの納品物資料も、テンプレート化していて、担当コンサルタントによって質のバラツキが出ないようにしている。
そして、これらの「型」を改善するプロセスを組織に埋め込んでいる。具体的には、コンサルティングサービスを提供する中で改善できると感じた箇所を投稿するSlackのチャンネル「#kaizen-process-b2bmarketing」を用意している。
さらに毎週金曜日に「プロセス改善会議」を1時間ほど開催。改善内容の議論と改善事項の実施担当者を決め、「型」自体がより良いものになるようにしている。
結果としては、サービス開始当初よりもはるかにPRJの成果、顧客満足度が安定し、ほぼすべてのお客様に事例インタビューにご協力いただけるようになっている。
今後も「パッケージ型のコンサルティングサービス」(もっと良いネーミングを思いつきたい!)にこだわり、専門性の高い人たちを採用し、提供サービスを磨き込み、再現性の高いパッケージを100個、200個と作っていきたい。そして、再現性の高いパッケージを作る中で生まれたメソッドをブログなり、SNSなりで世の中にバラまいていきたい。