今日紹介するのは1億DLを突破したLINEマンガ『鬼畜島』をプロデュースした外薗史明氏が執筆した『クソコンテンツを爆売れさせた ハリウッド流マーケティング術』。
現代ビジネスの記事『「クソ漫画」がなぜか“バカ売れ”…年1.5億円以上の印税を生む「凄すぎる」プロデュース術』が面白かったので書籍を購入してみたが、思わぬ収穫があった。
1. 印象に残ったこと
マーケティングの世界では「ブランドが成長を続けるためには、新規のライトユーザーを獲得し続けるしかない」と言われている。
直感的には、「ブランドに対する熱烈なファンが売上を支えるため、リピート購入や継続購入率を伸ばすべき」だと思いがちだが、熱烈なファンの売上貢献度は実は少ない。ほとんどのブランドでノンユーザー/ライトユーザーが、売上と成長のほとんどをもたらす。
実際、熱狂的なファンがいることで知られるハーレーダビッドソンでは、熱狂的なハーレーライダーは全体の10%だが、売上に占める割合はわずか3.5%だ。彼らは低所得層で収入を部品に注ぎ込み、バイクを買い替えないため、売上貢献度は低い。
徹夜でアップルストアの前に並ぶファンの姿が印象的なApple社にしても、熱狂的ファンは少数派であり、反復購買率(同じブランドを再購入する比率)も他のPCメーカーと大差はない。
新規のライトユーザー獲得の重要性は『ブランディングの科学』や『確率思考の戦略論』などの書籍で詳しく語られているが、『どうやってライトユーザーを獲得すれば良いのか?』という疑問への言及は少ない。
本書には、その「新規のライトユーザー獲得方法」が具体例とともに数多く書かれている。
わかりやすかったのは、1995年に連載が終了している『ドラゴンボール』が世代を超えて人気を博している理由に触れた以下の一節だ。
連載終了から数年後に単行本をリニューアルした完全コミックスを発売したのを手始めに、テレビアニメを再編集して子ども向けに日曜朝に放映、新作映画も何本か製作した。
おもちゃやゲームも作り続けて、新規の子どもファンの獲得に努めた。加えて大きかったのが、カードゲームの大ヒットだ。ショッピングモールのゲームコーナーやおもちゃ売り場のいたるところにカードの自販機が設置され、子どもたちが群がっている。毎日のようにカードゲームの対戦に熱中する子どもたちが、今の『ドラゴンボール』人気を支えている。
要はさまざまなタッチポイントで子どもたちへの認知を獲得し、新しいユーザーを呼び続けているから『ドラゴンボール』は今もなお人気作品であり続けているのだ。
もうひとつ、本書を読みながら思い出したのが、チャンネル登録数140万人を誇り、2015年頃に一世を風靡したYouTuber・マックスむらいの動画だ。
13:09~16:00ぐらいに『ライトユーザーを獲得し続けた結果、売上・利益が倍々で増えていった』エピソードが紹介されているのでぜひご覧いただきたい。
2. 抜粋とコメント
本書はストーリー形式の書籍でそのまま抜粋すると意味が伝わらないため、意訳しつつ、新規のライトユーザー獲得に参考になりそうな記述を以下にまとめた。
『売れる』のは『シンプルに面白い』作品。これが大前提
革新的な作品は売れない
『エヴァ』は中盤以降、哲学的な話が入ってくるが、「美少女がいっぱい出てくる、かっこいいロボットアニメ」というストレートな面白さが入り口になって売れている
→エヴァ観たことがないがそんな気がした。
天丼の売上を増やすにはまずは『食べたい』と思わせることが肝心。第一印象で『この天丼は旨い』と思わせる
新しい要素が最初に目立ちすぎると、『時間のロス』と『ある程度の拒否反応』が避けられない(中略)手っとりばやく、大ヒットを目指すのなら、『革新的』とか『斬新さ』は二の次で、『わかりやすく面白い入り口』こそが、絶対必要な条件
→差別化を意識したキャッチコピーやクリエイティブよりも、便益をストレートに表現したキャッチコピーやクリエイティブの方が効果が高いのも同じ話。
アメリカのシリーズホラーは、序盤からバッタバッタと人が殺されていく場面があり、みんなでポップコーンを抱えて観て、みんなで悲鳴をあげて爆笑するのに最適。なので複数人で観に行き、続編も『次もまた観ようぜ』となる
→複数人で視聴する文化があるから、口コミで新規のライトユーザーが生まれ続ける構造。アメリカのシリーズホラーは、映画産業の中で最も利益率が高く、ローリスク・ハイリターンなカテゴリーらしい。
電子書店の試し読みは「第一話のタイトルが出てくるページまで」という暗黙の決まりごとがあったが、これではどんな漫画か判断できないため、タイトル挿入が15ページ目に来る長いオープニングを作った
→当社で提唱している『サービスの見える化』に近い話。サービスを見える化することで、「どんな内容なのかわからない…」という不安感で離脱していたライトユーザーを獲得できる。
サイトでのクリック率を上げるために、いままでのコミックスカバーは「引き」の絵が多かったが、「ひとりだけのキャラだけ」「どアップ」にして、サイトのタイトルカバー画像を目立たせた。結果、平均25%のクリック率が70%だった
コンビニで鬼畜島のカバーを見かけて興味を覚えた人がスマホで『鬼畜島』と検索したときように、鬼畜島のランディングページを用意し、試し読みをさせた
日本の書店の棚は、出版社ごとに分かれているため、加筆した新版は別の出版社から出し直す
→ユーザー行動に合わせて、いままでのセオリーをアップデートしている事例。
ホラー漫画に特化したポータルサイトを立ち上げ。目立つ場所に鬼畜島を設置しておく。
→「(鬼畜島は知らないが)ホラー漫画に興味がある層」を獲得し、そこから『鬼畜島』への導線を作り、新規ユーザーを獲得した。
会社に眠る旧作を再プロデュースして利益に変える。例えば、『アイアンマン』は昔、人気がなかったが、マーベルがディズニー傘下に入ったあとに徹底的にプロモーションを行い、実写化したところ大ヒットした
映画をやることでテレビ以外の出会いの接点が増える。しかも、映画だと、ワイドショーやバラエティでも宣伝してもらえる。レギュラーの放送とは別の時間帯でも“出会い”のチャンスが増える
→アニメから実写へ、アニメから映画へ、映画から別の時間帯の番組へ。表現手法・媒体を多角化。
ハロウィンの影響でホラー需要が最も高まるのは10月であることがわかったため、ハロウィン向けに『パンプキンナイト』という作品をリリース
将来ナンバーワンになりそうだった媒体・LINE社に移籍
→当たり前だが、ユーザーが大量にいる場所・タイミングで露出するのは大切。
不定期更新のウェブ漫画が多かった中で、読者に「読む習慣」をつけられないと判断し、毎日更新を実施
そのコンテンツに必ず“出会える”状況を作る。『ドラえもん』を筆頭に、『クレヨンしんちゃん』『名探偵コナン』『アンパンマン』も、毎週決まった曜日にテレビをつければ見ることができる
→BtoB事業でも、展示会に毎回出展している。検索するとちゃんと1位に出てくる。毎週メールが届く、とかは地味に重要だろうな。
コンテンツの寿命を伸ばすためには、絶えず下の世代をファンにとりこんでいくことが必須
→BtoB事業でも、今の若手は将来の意思決定者候補。20代の若手にリーチし続けることは5年後、10年後、事業の寿命を延ばしてくれる一手になるかもしれない。
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