経営の成功・失敗 #2:エンタープライズシフト
株式会社才流(サイル)を経営しながら学んだことを、「経営の成功」「経営の失敗」という切り口で振り返る連載。第2回は「経営の成功」について、エンタープライズシフトの舞台裏を紹介します。
なぜエンタープライズシフトを目指したのか
GTM(Go-To-Market)やGrowth戦略のセオリーの一つに、SMB(Small and Medium Business)から入り、後にエンタープライズへとシフトする「Up-market戦略」がある。
SMBと呼ばれる、中小・中堅企業で実績を積み、機能やサービスを磨き上げた後、エンタープライズと呼ばれる大手企業の市場に登っていきましょう、という話だ。
一般論として、SMB市場は顧客開拓の難易度は低い反面、1社あたり単価が低く、解約率も高くなるため、収益性が低いとされる。反対にエンタープライズ市場は顧客開拓の難易度は高い反面、1社あたり単価が高く、解約率も低くなるため、大きな収益性を見込むことができる。
表にまとめたSMB・エンタープライズの違いは理解していたが、当社では創業以来、特に企業規模を問わずサービスを提供していた。しかし、2年前から明確な意図を持って、エンタープライズとの取引を増やす活動へ舵を切った。背景には2つの狙いがあった。
コンサルティングビジネスとの相性
コンサルティングサービスへの需要が強いのは、組織の複雑性やリソース不足を構造的に抱える大手企業であるため、より相性の良い市場でサービスを提供したい。大手向けビジネスコンサルティングの市場規模は、中小企業向けの数倍にのぼる。経営の安定性
上述の通り、エンタープライズは開拓難易度が高い反面、一度取引ができれば長期的な関係になりやすい傾向がある(=LTVが高い)。これは経営に安定をもたらし、我々がより腰を据えて社会・顧客への価値提供に集中できることを意味する。
結果
現在、当社の取引の75%がエンタープライズで構成されるまでになった。2年前の比率は38%だったので約2倍。多くのお客様にロゴ掲載や事例インタビューへの協力もいただき、感謝である。
成功につながった4つの要因
難易度が高いと言われる「エンタープライズシフト」になぜ成功できたのか。要因を分解すると、以下の4点に集約される。
① 提供サービスと大手企業の課題が合致していた
最も大きな要因は、当社の提供サービスが「大手企業の課題・ニーズ」に応えていたことだ。
社会環境の変化からDXが必要に: コロナ禍により、展示会やセミナー、訪問営業などのオフラインチャネルが使えなくなった。大手企業のマーケティング・営業DXのニーズが急増した際、当社がそれに応えるサービスを提供していたことで引き合いに繋がった。
市場環境の変化から新規事業立ち上げが必要に: 労働人口減や国内市場縮小を背景に、多くの大手企業が「新規事業の立ち上げ」を中期経営計画に掲げている。当社は2022年に『新規事業を成功させる PMFの教科書』を出版し、新規事業領域の知見・経験を提示できたことで引き合いに繋がった。
当社が提供する支援内容も、SMBで需要があるものと、エンタープライズで需要があるものにわかれる(※以下の表を参照)。エンタープライズで需要があるサービスを用意できなければ、エンタープライズシフトはできなかっただろう。
② 「書籍」が信頼の紋所になった
特定の資格制度がなく、有形の製品も持たないコンサルティングサービスにおいて、発注時の安心材料を提供できる「書籍」は大きな役割を果たした。
出版以降、大手企業からの引き合いが明らかに増えたため、現在では年1~2冊のペースで書籍を出版できるような仕組みを作っている。
③ 大手企業の支援実績が蓄積されていた
様々な企業様の課題解決を支援してきた実績があること、特に「超大手」と呼ばれるような規模の企業様の課題解決実績があることは、他の大手企業様が当社への発注を検討する際の安心材料となる。
プロジェクトが終わるたびにお客様に依頼させていただき、現在、当社の事例ページには100件以上のお客様インタビューが掲載されている。
④顧客獲得チャネルを大きく入れ替えた
エンタープライズシフトに伴い、顧客獲得チャネルを大きく入れ替えた。
以前はSNSやオウンドメディアでの情報発信を主体としていたが、現在は書籍やオフラインイベントなどが主力のチャネルになっている。
次に活かす学び:WHO→WHAT→HOWの順序の徹底
振り返ってみると、「大手企業の課題を解決するサービスを提供する」ことがすべての起点であったように思う。
エンタープライズシフトの掛け声のもと、顧客獲得チャネルを顧問紹介やCxOレターに変えたり、エンタープライズセールスができる営業担当者を採用したりすることが初手になっているケースをよく見るが、提供サービスや価値提案がSMB向けのままでは成果は出ないだろう。
私自身、大手企業への理解を深めるために昨年は100件近いインタビューや商談、会食を行ったが、WHO(誰に)・WHAT(何を)・HOW(どのように)のフレームワークでいうところの「WHO(誰に)」への理解・解像度を高め、「WHAT(何を)」を再設計する手間を惜しんではいけないと痛感した。
2年前に戻ってもう一度エンタープライズシフトをやるとしても、大手企業へのインタビューや商談を10社、20社とこなすことからはじめるだろう。







