#24 あなたの事業のセンターピンはなんですか?
今回は、設立12年で年商7,700億円、従業員数10万人まで急成長したグッドウィルを創業した折口雅博さんが提唱する『センターピン理論』を紹介したい。
センターピン理論とは
折口さんは著書『アイアンハート』において、「センターピン理論」を次のように説明している。
事業の成功は、たとえるならボウリングでストライクを取るようなもの。ストライクを取るために不可欠なのは、一番手前の真ん中に置かれた「センターピン(ヘッドピン)」を倒すことだ。投じられた球の勢いがどれほど強くても、このセンターピンに当たらない限りストライクを取ることはできない。センターピンを外さないように投げることがストライクを取るための絶対条件なのだ。
事業成功のセンターピンとして
ディスコなら「毎日満員にすること」
航空会社なら「エコノミークラスの座席が倒れる角度」
軽作業の人材派遣なら「必要な時に必要な人を派遣すること」
介護事業なら「居心地の良さ」
医療なら「技術力」
宿泊施設なら「清潔さ」
レストランなら「料理がおいしいこと」
進学塾のセンターピンは「成績や偏差値がアップすること」
などが具体例として挙げられている。折口さんはグッドウィル創業前に、伝説のディスコ「ジュリアナ東京」を手掛けていたことでも有名だが、あるメディアのインタビュー記事で
「戦略」の間違いを「戦術」で修正できないのと同じように、枝葉の部分にいくら力を入れても、本質をつかんでいなければ成功することはできないのです。
当時、ディスコの集客に重要だと言われていたことは、「音楽のセンスが良い」、「お酒や食事が美味しい」、「芸能人や業界人が集まる」、「内装が素晴らしい」といったこと。ですが、私から見るとこれらは枝葉の要素に見えました。(中略)ですが、ディスコの中核的なベネフィットは賑わいの中で楽しく騒げることです。お祭りは大勢の人があふれていて初めて盛り上がります。楽しく騒げるのであれば、曜日は関係なく人は来るのです。
とも語っていて、事業成功における「本質」「最重要ポイント」「絶対条件」とも言い換えられるセンターピンを見抜き、それを絶対に倒そう、というのが「センターピン理論」だ。
「なるほど。たしかに重要そうだ。」と思う理論だが、知りたいのは、どうしたらセンターピンを見抜けるようになるか、である。
折口さんは『その答えの一つは、常に「顧客目線で考える」ことにある。つまり自分が顧客の立場なら、商品やサービスを選ぶときに何を最重要視するか。どんな商品にならお金を出そうと思うか。逆に「こうだったら買わない、使わない」と思うNGポイントは何か。それを考えるということ』だと語る。
わかるような、わからないような。できているような、できていないような。できていると良いな、という気持ちになる。
余談だが、少年サンデーをV字回復させた元編集長の市原武法氏は、あるインタビューで少年漫画雑誌のセンターピンは「新人作家の育成力」だと語っていたのも面白かった。
新人育成です。優秀な編集者を育成・配置して、「ここは魅力的だぞ」と思わせるチームを作って、そこに才能豊かな描き手が集まってくる。そうした描き手をきちんと育て、一人前の作家になってもらい、ヒット作を出す。このルーティンさえ破らなければ、このゲームは絶対に負けない。
※出典:「失敗してもサラリーマンだから安泰でしょ、と思われたら改革なんてできない」 前編集長が明かす「少年サンデー」が“大赤字予測”から“復活”できたワケ
コンサルティングビジネスのセンターピンは?
翻って、当社が属するコンサルティングビジネスは何が「センターピン」だろうか。
最近、悶々と考えていたのだが、現時点での結論としては「売れるコンサルティングメニューの開発力」こそが事業成功のセンターピンだと捉えている。
同業のコンサルティング会社を調査していても、顧客ニーズに刺さる、「売れるコンサルティングメニュー」を持っていれば、費用が高くても、実績が少なくても、ブランド力が弱くても、担当コンサルタントのスキルが低くても、なんだかんだで売れている。
昨今、アクセンチュアが強いのも「DXの戦略立案から実装まで」という顧客ニーズに刺さるサービスを作り、提供できる組織を作ったからだし、船井総研が10年ほど前から成長軌道に乗ったのも、顧客である中小企業経営者が欲しがる『ズバリソリューション』(短期間で業績を高めるビジネスモデル)を提供しはじめたからだし、過去にBCGが一気にシェアを伸ばしたのも「経験曲線」や「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント理論」を提唱できたからだし、某外資系コンサル会社が一時期「教育研修」に軸足を移した(その後、研修事業は分社化・売却)のも、顧客ニーズが弱まった従来的な「コンサルティング」を提供していたからだし、すべて「売れるコンサルティングメニューの開発力」で説明できる気がする。
つまり、コンサルティングビジネスにおいては、
「売れるコンサルティングメニューを作る」というセンターピンを倒す
↓販促活動を行う
↓顧客から依頼がある
↓コンサルタントを採用する
↓事業が拡大する
という順番で、ボーリングのピンが倒れていき、ストライクが取れる。それがいま、「DX」や「SDGs」などの文脈で各種コンサルティング会社が隆盛を極めている背景にある構造だろう。
逆に、販促活動をがんばっても「売れるコンサルティングメニュー」がなければ売れないし、優秀なコンサルタントを採用しても「売れるコンサルティングメニュー」を作れなければ、業績は伸びていかない。後ろにあるピンを倒しても、ストライクは取れないのだ。
上述の少年サンデーの元編集長・市原武法氏は、同じインタビューの中で
とにかく新人作家の育成にはお金がかかります。だけど、そこにいくらかけられるかが勝負なので、お金をかけるところを間違えてはいけない。
と語っているが、仮に「売れるコンサルティングメニューの開発力」が我々のビジネスのセンターピンであれば、当社ももっとそこに投資していかねければ、メソッド開発・発信と同じぐらい投資していかねば、と思うのでした。
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