#3 業績の悪い企業に共通する死亡フラグ、「衰退の法則」
今日紹介するのは「衰退の法則―日本企業を蝕むサイレントキラーの正体」。カネボウ代表執行役社長や丸善代表取締役社長、日本人材機構代表取締役社長などを歴任した小城武彦さんが学術的な方法論に基づき、日本企業の衰退メカニズムを調査した本です。
※本書において『衰退』は「企業が事業環境に適応できず、売上げおよび利益の減少が一定期間継続すること」と定義されています。
1. 印象に残ったこと
調査から得られた結論として、衰退のメカニズムは一度駆動してしまうと止めることは容易ではないものの、
非オーナー企業は、事実(データ、現場の声、顧客の声、競合の動きなど)をベースとした議論、人事部門の統制に基づく公正な人材登用があると、衰退が防げる
オーナー企業は、社外取締役によってオーナーの意思決定の過誤を防止する仕組み、オーナーが意思決定に関与する領域を限定する仕組みがあると、衰退が防げる
と提言している本。この結論自体も参考になりますが、衰退企業の関係者にインタビューする中で出てきた「企業の死亡フラグ」っぽいものが面白かったです。
本社、経営会議向けの資料の増加
管理部、管理系人材の肥大化
会議で決めたことをやっていない
株主総会で経営陣が想定問答集を読み上げる
経営陣が『しっかりやれ』『よく調整しろ』などの抽象的な指示が多い
偉い人ほど暇になる。逆L字型日程表(平日夜の会食と土日のゴルフのみの予定)になる
飲み会で社内の人の話題が多い(=顧客や競合、市場の話が出ない)
タスク志向(タスクの遂行や業績の追求を重視)、人間関係志向(メンバー間の調和や個々人のモチベーションを重視)でわけた際、人間関係志向の人が出世する
経営会議で他部門のことに口出ししない
年次や出身大学を重視
経験のない若手が新規事業を任される
顧客よりも経営幹部が優先される
経営陣が事業所などを訪問する際、現場が受入れの準備に多くの労力を割く
経営幹部用のハイヤー、新幹線の一番前の席を取る慣習
などなど。『逆L字型日程表』はワーディングが面白い(笑)
業績の良い会社の人と話していると、社内の話ではなく、顧客や競合、市場の話が多く、数字が頭に入っていて数字で会話されることが多い印象を持っており、『飲み会で社内の人の話題が多い』という死亡フラグが特に納得でした。
2. 抜粋とコメント
「ある事業場の帰りにタクシーに乗っていたら、運転手から『おたくはすごい会社。社長がお見えになるというので、送り迎えの車のチェックに来た。サイドミラーが曇っていないかまでチェックしていた』と言われた。こうしたことが前々からの伝統になっていた」
→半端ない。韓国ドラマか。
破綻企業には、①社内での対立を極力回避する、②役職や入社年次といった社内秩序を強く重んじる、といった二つの共通点が存在する。(中略)仮に業務上の必要があるとしても上司や同僚に対する批判と取られかねない言動は、特にオフィシャルな場では極力回避される。また、業務上のミスや失敗が生じても、個人の責任を問われることはほとんどない。
→侃々諤々の議論がされていないのは要注意。
「政治的」とは、すなわち「正しいか正しくないか」ではなく、「好きか嫌いか、仲間か仲間でないか」で物事を判断する傾向を有することを意味する
→他部署の嫌いな人に「正しいこと」を言うインセンティブはほとんどないですが、それを言えるのが優良企業。
予定調和的色彩の第三の側面は、会議の決議が原則として全会一致で行われることである。
→全会一致を目指したら、根回しが必要になってしまう。
破綻企業のミドルは、経営陣の会議が粛々と進み、全会一致で案件が決議できるよう、多大な労力を事前調査にかけることとなる。(中略)「仕事において大事にされることが、あまりにも調整的なことが多かった。仕事をするうえで大事なことが調整であった」「ミドルは、ずっと調整のための資料を作っていた。彼らは上に意思決定してもらうための資料を作る人々だった」
→全会一致のための根回し、資料作りをしていたら要注意。
優良企業三社の事前調整は、どれも事実に基づく議論を深めることを目的としている。(中略)事前調整をするたびに、議論が深まる、提案の弱さ、落ちている部分が見ていている。
→事前調整が悪なのではない。ファクトベースで、精度を高めるための事前調整は歓迎すべし。
優良企業の議論は事実をベースにしているため、年齢の若さ、経験の少なさがハンディとはなりにくい。市場、顧客に接している前線の人間、それも若手の意見が、事実ベースとして理論武装されている限り、通りやすい組織風土が形成されている。
→まずはファクトベースの議論風土があり、その先に若手や現場の人の意見が通る風土がある、という順番。
「科学的な分析をやらせる。選球眼、事業を見る目の厳しさがみんなに浸透した。企画立案能力がそこで養われた。(中略)論理的に話を聞いてくれる人がいるので、上げる力がついた。彼は論理的にやらなければ通らないが、それさえやれば通る。(中略)重箱の隅はつつかないが、フレームワークとして整合性が取れているかというのをきわめてクレバーにジャッジし、厳しい追求がなされてきた。」
→ある種、当たり前のプロセスだが、それを徹底して組織に根付かせられるか。
R社において、オーナー自身が直接意思決定に関与する領域は、①事業計画や大規模な投資、組織変更といった経営の重要事項と、②個人的にこだわりを持つ特定の事業分野の二種類となっている。
→『#2 苦肉の策から生まれたドン・キホーテの必勝パターン。「安売り王一代」』で紹介したドン・キホーテ創業者と同じ時間の使い方。ドン・キホーテ創業者の場合は店舗開発や財務戦略だった。
「オーナーには少なくとも翌日には一報を入れないといけない。決めたことは即実行することが組織全員に刷り込まれている。(中略)来客とのミーティングは十五分単位。世間話はしない。いきなり本題に入る。」
→まだまだこのレベルで仕事できていないな、と反省。
事業環境が安定していれば、感度の低さは問題とならず、意思決定も前例を踏襲していれば一定程度の経済合理性は自動的に担保されるであろう。戦略的な意思決定が必要とされる場面もほとんどないと思われる。
→逆に言うと、事業環境が良く、業績が良いときから、正しい組織風土を作る必要がある。
破綻企業に派遣された専門家から聞いた話である。(中略)優良企業の経営陣がどのくらい忙しいかをインタビューで尋ねたところ、「経営陣が社内で一番忙しい」と判で押したような回答が返ってきたのは印象的だった。
→かくありたい。
感想やコメントなどあれば「Share」ボタンでのシェアか、#Twitterでは言えない話 のハッシュタグでツイートしてくださると嬉しいです。
月2~4本程度のペースで更新していければと思っています。ぜひご登録ください。