#31 事を成すには時間がかかる。レゴ――競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方
今回はLEGOの発展の歴史が綴られた『レゴ――競争にも模倣にも負けない世界一ブランドの育て方』を紹介したい。
90年近い歴史を持つデンマーク発の企業、レゴグループ。1930年代に創業し、幾多の危機を乗り越えながらも現在では世界一の玩具ブランドとして君臨している。2020年12月期の売上高は約8,000億、売上高営業利益率は29.6%、ROE(自己資本利益率)は43.4%と驚異的な業績。100年近いスパンで経営の軌跡を追える本は珍しく、新鮮な学びがあった。
1.印象に残ったこと
意外だったのは、とにかく事業が軌道に乗るまでに時間がかかっていること。木工家具の工房から木工玩具の会社になるまでにも時間がかかっているし、その後、現在のようなブロック玩具の会社になり、海外に進出し、子供から大人まで楽しめる商品になるまでにも数十年かかっている。
主要な出来事を時系列で並べると以下のようになる。
・1916年、木工家具を作る工房として創業
・1929年、世界恐慌の余波で倒産寸前に
・1932年、事業転換を迫られ、木工玩具の製作をスタート
・1934年、社名を「LEGO」に定める。数年間は泣かず飛ばず
・1939年、第二次世界大戦で欧州でシェアを持っていた大手メーカーが次々と事業撤退。彼らに代わって需要を取り込み、急成長を遂げる
・1947年、現在のレゴの源流となるプラスチック製玩具の開発を開始
・1949年、最初のブロック玩具が完成。しかし、子供たちの反応はイマイチ
・1953年、商品名を「レゴブロック」とより分かりやすい名称に変更
・1958年、ブロック同士がカチッとはまる「クラッチ構造」が完成
・1960年、火災で木製玩具の製作工場が消失したこともあり、ブロックの開発・製造に経営資源を集中
・1961年、アメリカに進出
・1966年、世界42カ国に進出
・1969年、4歳以下の幼児のためにブロックの大きさを8倍にした「レゴデュプロ」を発売
・1977年、上級者向けの「レゴテクニック」シリーズを発売
・1980年代
- 城シリーズや宇宙シリーズなど、プレイテーマ(遊びのテーマ)と呼ぶ世界観を表現した商品群を充実
- 乳幼児の発達を促すベビーシリーズ、学校教材用セットなどを開発
とまぁ今のLEGOっぽくなるまでに何十年もかかっているのがわかる。木工家具を作る工房としてはじまった1916年から、現在のビジネスモデルである「レゴブロックの開発・製造」に集中する1960年までにすら44年もの期間がある。
LEGOの軌跡を追いながら、会社や事業はある単一のものが順調に伸びた結果、大きくなるのではなく、様々な機能改善、新商品開発、コンセプト改良、ターゲット層の拡大、販売チャネルの拡大など、あの手この手の努力をした結果、大きくなるのだなと痛感した。
描いたビジョンや戦略に対して、直感的には数年ぐらいで達成できないかなーと思ってしまうし、ごく稀に数年で上場するような会社も存在するわけだが、統計的にはほとんどの偉大な会社や事業は長い時間を経て築かれている。
本書の中にも「一朝一夕に、ユーザーのアイデアを取り入れて成功できたわけではない。私たちも、10年以上の時間をかけて苦労を重ねてきた末に実現したのだ。」という記述があった。会社経営をしているとやりたいことが無限に出てきて、理想や構想も大きくなるばかりだが、焦ることなく腰を据えてやっていこう、と思った次第である。
2. 抜粋とコメント
土壇場でレゴは自らの本質的な価値を問い直し、「ブロックを組み立てる」という経験を届けることに事業を集中した。
→複数回の経営危機を含む様々なイベントを通して、自社の本質的な価値を発見している。本質的価値の発見は、一度きりのイベントではない。
一般的な玩具メーカーが、毎シーズン、新たな玩具生産のために設備を更新するのに対し、レゴはブロック生産の設備をほとんど変更する必要がない。つまり、製品に必要なブロックの組み合わせを変え、新たなパッケージで発送すれば、新商品を継続して投入できるのだ。
→チート感ある。営業利益率が30%程度あるのも納得。
社内では、外部の有力コンテンツに頼れば売り上げが計算できるという安易な発想が芽生え、製品開発力の低下を招いた。
→自分たちが弱いときほど、外部の強いナニカに頼ってショートカットしたい気持ちが芽生えがち。しかしながら、経験的には自分たちで価値を積み上げるしかないのだろなと思う。他力本願、ダメ絶対。
事業の多角化を決めたまではよかったが、レゴはその大半の運用を自前で担うことにこだわった。それまではブロックの企画や製造、販売などしか経験のないレゴ社員を、さまざまな新事業に移動させ、マネジメントするように求めた。
→経験や専門性のない領域では社員のパフォーマンスが出なかった話。「#23 自分がadd valueすべきことはなにか」でも書いたが、いろいろなことに首を突っ込んでも、しっかりパフォーマンスが出てることって1割、2割しかないような気がする。
緊急事態の下では、コンサルタントが得意とする理念の再定義作業や、成長のストーリーづくりはいらない。クヌッドストーブはまず、生き残るために必要な構造改革をためらわずに断行した。
→平時と戦時ではやるべきことが違う。よく言われる「創業初期は事業を軌道に乗せることが最優先。ミションやビジョンはいらない」的な話も近い観点なように思う。
1990年代にIBMを復活させたルイス・ガースナー会長兼CEOのメッセージも有名。
"私が皆さんに申し上げたいのは、いま現在のIBMに最も必要ないもの、それがビジョンだということです。私がいつ新ビジョンを発表するかという憶測が絶えませんが、今のIBMにビジョンなど必要ないのです。必要なのは各事業部門が新しい現実を認識することであり、私が約束できるのは、苦痛に満ちたこの時期をできるだけ早く脱出するためにあらゆる手をつくすつもりだということです。"
問題の所在は何となく分かっていました。組織が問題と考えていたんです。最悪の業績なのに、誰もが満ち足りた顔をしていることに違和感を覚えましたから。(中略)まったく儲けが出ていない。売り上げの予測すら立てられない。なのに、誰もが満ち足りた顔をしている。これこそ不思議だ。(中略)過去のブランド力、子供たちへの影響を過信するあまり、環境変化に対する感度が鈍っていました。それが危機に対して迅速に対応できない根本的な理由だったのです。
→あな恐ろしや。ハーバード・ビジネス・レビューの『経営者は黒字に逃げてはいけない』の中でサイバーエージェントの藤田社長が「私や堀江貴文さんのようなインターネット世代の経営者は、常にネットで悪口を書かれているので、調子に乗りにくい と思います。」と発言していて、面白い視点だなと思ったが、良いことしか耳に入らない環境だと判断を間違えてしまうのだろう。ネットで叩かれたくはないが、叩かれないと勘違いしてしまうパラドックス。
戦略は、経営陣が腹落ちした判断軸であるべきだ。立派な戦略でも、経営が迷走しているケースの大半は、経営者や幹部が心から共感した基準で判断していないからだ。
→頭では納得できるが、腹で納得していない意思決定はだいたい微妙な結果になる印象。
「好業績は確かに喜ばしいことですが、我々はそれを目的に事業をしているわけではありません。レゴの存在は常に子供たち、そしてその未来のためにあります。」
→CEOの発言がかっこいい。私も業績発表会をするようになったら言ってみよう。笑
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