#35 人を評価しない人事制度の背景にある理由
最近、採用面接をしていて、当社の『人が人を評価しない』『全員の給与を一律に上げる』的な人事制度について質問されることが多い。
おそらく多くの会社に人事評価制度があり、多くの人の関心事の1つだろう。今回は当社の制度を参照しながら、評価制度を作っていない背景や「評価」について思うところを書いてみたい。
まずは当社の評価・給与に関する人事制度を紹介しよう。抜粋版のキャプチャを貼るとこんな感じ。
ざっくり『人を評価しない』。『業績が伸びている限り、みんなの給与を上げる』的な制度になっている。この制度にした背景にはいくつか理由がある。
①人は人を正確に評価できない
ノーベル経済学賞を受賞した心理学者、ダニエル・カーネマンの近著『NOISE 下 : 組織はなぜ判断を誤るのか?』に人事評価の欠陥について指摘する章がある。引用しよう。
人事評価についてはこれまでに膨大な量の研究論文が発表されており、人事評価のノイズがきわめて大きいことは多くの研究で実証済みである
多数の調査を分析して得られる結論ははっきりしている。人事評価は評価対象者の出来不出来を妥当に反映しているものだと私たちは期待するが、端的に言って、大半の人事評価はそうなっていない。ある調査も「評価対象者の実績と人事評価との関係は弱い。控えめに言ってもはっきりしない」と総括している
人事評価に関する調査を総括したある研究は、「過去数十年にわたって続けられてきた努力にもかかわらず、人事評価は相変わらず不正確な情報を量産しており、評価対象者の能力向上には役立っていない」と断言した
企業が膨大な時間をつぎ込んで作成・運用する人事評価制度だが、「正確な評価」は期待できないようだ。
調査結果が真実かはさておき、経験的にも「人は人を正しく評価できない」と思っているので、無理なことはやめようと考え、評価をしない人事制度にしている。
②評価してる時間に価値が生まれない
個人的にはこれが最も大きな理由だが、人事評価制度を作ったり、従業員の評価をしたり、評価面談をしている時間、顧客や社会に価値を提供できないし、その時間は売上・利益につながらない。
営業に強い会社で「日中は営業との社内会議禁止」というルールをよく耳にするが、同じような気持ちで、価値創出につながらない時間を最小限にしたいと考えている。
仮に四半期に1回1時間、1,000人の従業員と評価面談的なものをやる場合、年間で4,000時間。1日8時間労働だとすると、500人日分の時間が評価面談に使われることになる。
500人日分のリソースをコンテンツ作成に突っ込めば、200本以上のコンテンツが発信できるだろうし、従業員1人あたり10万円/人日の粗利を生み出している企業であれば、年間5,000万円の粗利損失が生まれてしまう。
人事評価をした結果、従業員のパフォーマンスが上がれば良いが、ある調査によると「管理職や人事部長を含む社員のじつに90%が、自社の会社の人事評価は期待される水準に達していないと考えている」ようで、神がかり的な制度を作らない限り、パフォーマンスに悪影響を与えてしまいそうだ。
③評価は市場・顧客からされるべき
とはいえ、自分の仕事に対する評価がないとフィードバックサイクルが回らず、パフォーマンスが改善しない、という視点もあるだろう。
上場企業の経営者が、株式市場からは株価によって、顧客からは業績によって評価を受けるように、各コンサルタントも(上司ではなく)市場・顧客から評価を受ける方が良いのではないか。
そう考え当社では、プロジェクト期間中または終了後に「Good&More」という顧客アンケートを実施している。
プロジェクトを通じてよかったところ、改善を希望するところをクライアントから率直に記載いただき、プロジェクト進行や次のプロジェクトに活かすようにしている。
④会社の構造が個人の成果を規定する
個人がどれぐらいの成果を出せるかどうかは会社の構造(どの市場に、どのタイミングで参入して、どんな戦略・戦術で行くか、組織やオペレーションの仕組みが強固かなど)にかなりの部分が規定され、良い構造のもとではほとんど全員が成果を出せるし、悪い構造のもとではほとんど全員が成果を出せないと思っている。
そして、会社の構造を決めるのはトップを中心としたマネジメント層であり、言ってしまえば「成果が出るかどうかは、上の責任」だ。
仮に業績が悪かったり、顧客への提供価値が低いのであれば、見直すべきは戦略や業務プロセス、採用基準や育成制度などだろう。そのため、会社の構造を規定するトップの責任を直視しやすくするために、『人が人を評価しない』『全員の給与を一律に上げる』制度を採用している。
以上の4つが人を評価しない人事制度の背景にある理由だ。
すべて私の価値観なので賛否両論あるだろうが、『#33 常に原点から考える。隠れた人材価値』で紹介した以下の図の通り、大切なのは人事制度自体の完成度や良し悪しよりも、基本的な価値観や信念との一貫性だろう。
いまの制度も微修正したい箇所はあるが、従業員数が増えたとしても基本的にはこの制度のままやっていきたいと思っている。
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