経営の成功・失敗 #4:カテゴリー選定
株式会社才流(サイル)を経営しながら学んだことを、「経営の成功」「経営の失敗」という切り口で振り返る連載。第4回は「経営の失敗」について、「カテゴリーの呪縛」という概念を紹介したい。
※ここで言う「カテゴリー」とは、「何屋と認識されるか」という顧客の頭の中にある分類や選択肢のこと
ある上場企業社長との会話
先日、特定領域の労働集約ビジネスを展開する上場企業の社長と話す機会があった。
彼が抱える悩みはこうだ。
参入したカテゴリーはニッチで尖っていて、初期の成長には貢献したが、上場企業として成長し続けるには市場規模が小さかった。
さらなる成長のために上流(戦略)や下流(PMO・実行)、あるいは隣接領域に進出したいが、「言うは易く行うは難し」を痛感している。上流には大手コンサルファームが鎮座し、下流にはAI化の波が押し寄せている。
何より彼が嘆いていたのは、自社の強みであるはずのブランド力だった。
「『◯◯なら、△△社』というカテゴリーでの第一想起が取れていることが、逆に足かせになっている。『御社は◯◯の会社だから、✕✕(隣接領域)は弱いですよね?』と、顧客に認識されてしまう」
またビジネスモデルごと変えようと模索し、収益的には魅力のあるモデルを見つけても「何のために起業したんだっけ?」「既存のカルチャーと全然違うよな」という葛藤がぬぐえない。
彼の話は、自分が抱えていた苦悩と完全に一致していた。
当初、参入したカテゴリーが制約条件となり、成長戦略を自由に描けないのだ。
才流で起きたこと
私たちは「BtoBマーケティング」というカテゴリーに参入し、一定のポジションを築いた。しかし、そこでは予想以上の制約に直面した。
1. 上流にも下流にも広げづらい
上流には大手コンサルファームがあり、下流のBtoB広告運用や制作などの受託業務は収益性が高くない。昨今はAIに代替されそうである。
2. ブランドが足かせになる
「BtoBマーケティングなら才流」という第一想起が取れているがゆえに、隣接領域の「営業」や「事業開発」などのケイパビリティがあっても、「専門外ですよね?」と思われてしまう。
3. 組織文化が壁になる
ビジネスモデルごと変えようにも、いまのMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)、採用基準、組織文化とマッチしない。もう1個会社を作ってしまった方が早いと思うほど、組織は既存のカテゴリーに最適化されている。
「カテゴリーの呪縛」と名付けたい
この一連の構造を、私は「カテゴリーの呪縛」と呼ぶことにした。
参入したカテゴリーに紐づく形で形成された既存アセット——事業立地、ブランド、組織文化などが、戦略立案の自由度を外から見たときよりもずっと狭くする。初期に選定したカテゴリーから抜け出すのは、想像以上に大変なことだ。
次はこうする
もし私がもう一度、あるいは次の事業を作るなら、以下の2点を徹底したい。
1. 「2手、3手先」までシミュレーションしてから、参入するカテゴリーを決める
SPF(Solution Product Fit)やPMF(Product Market Fit)に至る前のフェーズで、「そのカテゴリーで突き進んだ先に、行き止まりはないか?」を考えておく。想像しておくだけで、「後の祭り」を防ぐことができる。
2. 「カテゴリーの呪縛」の突破方法を調べたうえで進出する
先行企業を調べれば「カテゴリーの呪縛」を突破する方法が見えてくる。その方法は領域ごとに異なるだろうが、事前に調査したうえで参入を決めたい。
たとえば、当社が参入したカテゴリーではいくつかのパターンがあった。
1つ目は「自社事業」への進出。マーケティング支援を手掛ける刀がテーマパーク(イマーシブ・フォート東京やジャングリアなど)を運営したり、システム開発で知られるチームラボがミュージアム(チームラボボーダレスやチームラボプラネッツなど)を運営したりするように、支援業の枠を超えた自社事業を持つことで会社を成長させる。
2つ目は「上流」へのリブランディング。 SHIFTが「ソフトウェアテスト」から「IT/DXの総合ソリューション」会社になったように、あるいはIT人材派遣の会社がDXの波を捉えながらコンサルティング会社へ変貌したように、自社と相性が良い、より上流のカテゴリーに展開する。
3つ目は「調査・研究機関」としてのブランド認知の獲得。大学にどんな学部があっても成立するように、「研究機関」的ブランドは隣接領域への展開との相性が良い。シンクタンク系の会社、米国のリサーチ&アドバイザリーファーム CEB(Corporate Executive Board)、あるいは船井総研の研究会モデルが成功例。
カテゴリーの選定は、参入時にのみ重要な意思決定に見える。しかし実際には、その後の成功・失敗を左右する、極めて中長期的な意思決定だ。実体験からその重要性を痛感した今、「それさぁ、早く言ってよ〜」(Sansanの有名なCMのセリフ)が正直な感想である。


