#40 小さな改善の継続が大きな成果につながる
という当たり前の話を面白い事例をもとに書いてみたいと思います。
自転車競技、イギリス躍進の秘密
『複利で伸びる1つの習慣』を読んでいて、イギリスのプロ自転車競技は2003年にデイビッド・ブレイルスフォード氏が監督になってから大きく飛躍したことを知った。
もともとイギリスは自転車競技の弱小国だったが、ブレイルスフォード氏が就任してから5年後には2008年の北京オリンピックでロードレースとトラックレースを制覇し、自転車競技の金メダルの60%を獲得。2012年のロンドンオリンピックでは、イギリス人選手の9人がオリンピック記録を、7人が世界記録を樹立したらしい。
ブレイルスフォード氏の戦略は極めてシンプルで「小さな改善の積み重ね(marginal gains)」を実践すること。自転車競技に関係するものをできるだけ細かく分けて、それぞれを少しずつ改善し続けた。
例えば、
自転車のサドルを座りやすく改良する
タイヤにアルコールを塗って滑りにくくする
選手にヒーター入りオーバーパンツをはかせて走行中の筋肉温度を最適に保つようにする
バイオフィードバックセンサーを使って、あるトレーニングが各選手にどれくらい効果があるか記憶する
サイクリングスーツの空気抵抗をテストして抵抗が少ないものを着用する
少しでも回復の早いマッサージジェルを見つける
風邪をひかないように医師に効果的な手の洗い方の指導を受ける
夜に熟睡できるように各選手の枕やマットレスを指定する
チームトラックの内装の壁を真っ白にしてわずかな埃も見つけられるようにする
など。
ブレイルスフォード氏は元プロ自転車選手でありながらMBAホルダーでもあり、MBA時代に学んだ“カイゼン”のような業務改善・プロセス改善に興味があり、それを自転車競技で実践したらしい。
※参考:最初から完璧さを追求しない、「1%の改善」が金メダルにつながる
同様の取り組みは、日本企業でも“日本一のホワイト企業”と呼ばれる未来工業が行っている。
未来工業では、出すだけで500円がもらえる改善提案制度を40年以上も継続。改善提案の対象は給与・人事以外のすべての業務にわたり、年間7,500件程度の提案がされているという。年休140日のホワイト企業でありながら、2021年度は売上360億、営業利益41.8億と業績面も好調だ。
※参考:『稼ぎたければ、働くな。』
小さな改善による複利
イギリスのプロ自転車競技連盟や未来工業が実践しているのは、小さな改善の積み重ねが中長期では劇的なパフォーマンスにつながる、という考え。
努力論でよく語られる『昨日よりも1%ずつ改善すれば、365日後には1.01の365乗で37.8になるけど、1%ずつ退化すると365日後には0.99の365乗で0.03。ほとんど0になってしまうから、毎日少しでも良くなりましょうね』という話。この現象は、投資の世界では“複利”と呼ばれる。
上記は「期間」を横軸にとった複利のパワーのグラフだが、仕事においては「改善回数」が横軸になる。改善回数が多ければ多いほど、仕事のパフォーマンスは絶大になる。
当社での小さな改善の積み重ね
当社でも小さな改善の積み重ねを取り入れていて、社内では“プロセス改善”と呼んでいる仕組みがある。
Slackに「#kaizen-b2bmarketing」「#kaizen-backoffice」などのチャンネルが複数存在し、メンバーが日々業務を進める中で改善できると感じたことを投稿できるようになっている。
投稿されるのは、コンサルティング業務に関することであれば、
ヒアリングシートの項目追加、修正案
コンサルティングプロセスでの調査手法の追加、修正案
会議体の目的やアジェンダの変更案
顧客への連絡事項の文章テンプレート案
などで、バックオフィス業務に関することであれば
受電時のSlack通知方法の変更案
定例会議の名称やアジェンダの変更案
休暇制度の適用ルールの変更案
などと多岐に渡る。
直近1年ではコンサルティングサービスのプロセス改善だけで180件ほどの改善を行った。今年はバックオフィス業務の改善も含めて年間300件ほどは「小さな改善の積み重ね」がなされる見込みだ。
1年半前から取り入れた仕組みだが、社内でも好評で、プロセス改善実施前よりもはるかにコンサルティングプロジェクトの成果、顧客満足度が安定し、ほぼすべてのお客様に事例インタビューにご協力いただけるようになっている。
目標達成に重要なのは“仕組み”
イギリスのプロ自転車競技や未来工業の事例、自社での“小さな改善の積み重ね”の実践を通じて感じるのは「仕組み」の重要性だ。
チームで何かの大きな目標を達成しようと思ったときに
決意を新たにする
合宿をして、ビッグアイデアを考える
個人個人にもっと頑張ってもらうように呼びかける
個人個人にノルマを貸す
「絶対達成しろー!」と詰め寄る
などもできるが、瞬間的な効果はあっても長続きはしないだろう。長続きしないと複利のパワーを借りられず、大きな目標は達成しづらくなる。
もし本当に大きな目標を達成したいのなら、考えるべきは「自分を目標達成に導いてくれる仕組み」の構築だ。
朝起きて、仕事を開始し、残業せずに退勤するまでの間、特別な意志力・自制心がなくても、物事が進捗していき、数年後、数十年後には自然と目標を達成できる「仕組み」。それをビジネスモデル、採用、顧客獲得、業務オペレーションなど多岐に渡る領域で構築していく。
もちろん、「自分を目標達成に導いてくれる仕組み」をすぐに作れたら苦労はない。
まずは完璧にはほど遠い、粗粗(あらあら)の仕組みを構築し、それを延々と改善し続けることで仕組みの精度を高めていく。すると、最初はしょぼくても、2年後、3年後には当初は想像もできなかったレベルで強固で洗練された仕組みになる。イギリスのプロ自転車競技連盟の「小さな改善の積み重ね(marginal gains)」はわかりやすい事例だろう。
最近、読んだ本の中に以下のような一文があった。
If you’re counting, you’ll run out of patience before success actually arrives.
(訳)数えていたら、成功する前に忍耐力が尽きてしまう
人間の脳は短期で成せることを大きく見積もり過ぎ、中長期で成せることを小さく見積もり過ぎる傾向がある。
何かの大きな目標を達成しようと「仕組み」を作りはじめた後に注意すべきは、現在地に絶望しないこと。取り組みの初期であればあるほど、現在の結果を計ると期待値とのギャップに心が折れてしまう。
小さな改善による複利の効果は遅れてやってくる。気にするべきは現在の結果よりも、現在の軌道であり、仕組みが自分を目標達成に導くように設計されているかだ。
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