#42 コンテンツマーケティングの再現性と可能性
最近、いくつかの場所で「なぜ、そんなにコンテンツ発信にこだわっているのか?」と聞かれた。このニュースレターも毎週1本の配信を続け、はや42本目。セミナー登壇や取材コンテンツも含めると、私1人で年間7,80本はコンテンツを発信しているかもしれない。
コンテンツを活用したマーケティング手法を“コンテンツマーケティング”と呼ぶが、2011年から10年以上に渡り、コンテンツマーケティングをやっていることになる。今回は自社で実践する中で感じたコンテンツマーケティングのメリット、デメリット、可能性などを書いてみたい。
前職での経験①
私が最初にコンテンツマーケティングに触れたのは前職のGaiaxでだった。
Gaiaxは1999年設立で、創業以来、大規模なプロモーションサイト、コミュニティサイトの構築・運用をやっている会社だ。
それらの構築・運用サービスを営業する部署に2010年頃に所属していたが、商談・コンペの際に自社の強みを『10年近くやっているため、ノウハウが豊富です!』と伝えていた。実際に社内には豊富なノウハウがあったように思う。
しかし、無形のノウハウを商談・コンペの1時間程度の場で伝えるのは難しく、ノウハウのない他社にコンペで負けるなど、商談受注率は高くなかった。
そこで自社のノウハウを見える化して、商談受注率を上げるために立ち上げたのが、いまや月間100万PV程度あるオウンドメディア『ソーシャルメディアラボ』だ。
2011年に開設し、BtoB企業が社外へノウハウを発信する、先駆け的なオウンドメディアだった。ノウハウを出し惜しみなく発信した結果、問い合わせ数が増え、商談受注率が向上した。
前職での経験②
『ソーシャルメディアラボ』は同じ部署の別チームの取り組みだったが、横目で見ていた私は、担当するBtoB企業向けのWebマーケティング支援事業でもオウンドメディアを立ち上げてみた。
2012年の夏頃に立ち上げたが、BtoBのWebマーケティングに関するノウハウが世の中に出ていなかったこともあり、すぐに問い合わせ数が増え、商談受注率や受注数も向上。元々売れない営業パーソンだった私自身のキャリアも、この頃から上向いていき、事業にとっても個人にとっても転機となる取り組みとなった。
記憶に残っているのは、オウンドメディアでの発信を継続していると社外の人に「栗原さんのブログを読んで問い合わせが増えました&給与が上がりました」と言われるようになったこと。無料で出したコンテンツで誰かの給与が上がるってすごいなと。
また、顧客開拓の目的で立ち上げたオウンドメディアだったが、それまでExcelでテレアポリストを作り、コールドコール(テレアポ)を1日100件ぐらいして、極めてコールドな商談をしていた身からすると、コンテンツを発信した結果、お客様の方から問い合わせをいただいたホットな商談は、営業のしやすさが10倍ぐらい上だった。
一度上げた生活水準はなかなか下げられないのと同じように、一度問い合わせや紹介などのインバウンド経由の商談を体験してしまうと、テレアポや飛び込みなどのアウトバウンド経由の商談にはなかなか戻れないな、と感じた。
コンテンツマーケティングで成果が出る理由
オウンドメディアでのコンテンツ発信をはじめとする、コンテンツマーケティングはなぜ成果が出るのだろうか。
「検索エンジンに上位表示されるから」「ノウハウ発信を通じて信頼性が上がるから」など様々なことを言われるが、ひとえに“現代の顧客は自分で情報を探しているから”に尽きるように思う。
下図はマーケティング業界でよく参照される「顧客の購買プロセスのうち57%が営業パーソンに会う前に終わっている」という調査結果だ。
業界内では“Self-educating buyers”と言われるが、現代の顧客は自ら情報を探し、自ら学んでいる。
情報収集源は、企業のオウンドメディアやWebサイト、書籍、セミナーなど多岐にわたるが、とにかく営業パーソンに相談する前に顧客は自ら学び、解決する課題や採用するソリューションを絞り込んだり、決めている。
実際、コンサルティングプロジェクトの中で法人顧客の購買行動を調査すると、1,000万円以上の高単価商材でも、検索エンジンで情報収集したり、セミナーに参加したりして採用するソリューションを決めている。営業パーソンとはZoomで30分打ち合わせするだけだったりする。
顧客が“Self-educating”するようになっている以上、営業パーソンと接する前の57%のプロセスに対して、顧客に役立つ情報を発信することは理にかなっている。コンテンツを通じて、顧客の購買プロセスの前半から接触を持つことで、当然の帰結として、問い合わせ数、受注数、受注単価などが上がる。
逆に57%のプロセスで顧客と接触を持てない企業は、そもそも商談の機会をもらえなかったり、コンペになって商談受注率が下がったり、価格競争に巻き込まれたりする。シンプルに営業活動が大変になってしまうのだ。
コンテンツマーケティングのデメリット
前職での成功体験や顧客の購買行動の変化から、コンテンツマーケティングは再現性高く成果が出る手法だと思ってた。しかし、一方で
成果を計画、予測しづらい
広告と比べて、成果が出るまでに時間がかかる
良いコンテンツを作れる人が少ない。いても離職してしまう
などのデメリットも感じた。一般的な企業が取り組むうえでは正直、かなり大きなデメリットだろう。様々な会社を観察していても、トップのコミットメントがない限り、稟議も通らなければ、成果も出づらい手法という印象だ。
当社のコンサルティングプロジェクトでも、マーケティング施策の中核としてコンテンツマーケティングを推奨することはほとんどないが、一般的な企業が取り組むには欠点が多い手法だろう。
一方、
未上場で上場予定もなく、成長や成長スピードへのプレッシャーが少ない
代表の私がコンテンツメーカーなので途中で離職しない
代表の私がコンテンツメーカーなのでトップのコミットメントが申し分ない
当社のような企業にはフィットしているため、創業以来、“コンテンツドリブン”な営業、マーケティング、採用活動を続けている。
“コンテンツ”の可能性
さらに、営業、マーケティングや採用の手段として以外に、会社として“コンテンツ”に投資する理由がある。
それは、多くの人たちに良い影響を与えられる点だ。
仮に当社がこれから有形/無形のプロダクトを開発したとしても、日本で5,000社に導入されれば御の字だろう。
BtoBプロダクトの世界で「大ヒット」と呼べるものでも、累計導入社数は数百から数千社ほど。日本に300万社の企業があると言われる中でプロダクトを開発しても、広くあまねく価値を届けるのは至難の技だ。
しかしながら、“コンテンツ”であれば、10万、100万社に活用してもらえる可能性がある。コンテンツを英語化すれば、世界で1,000万社、1億社に活用してもらえるかもしれない。
例えば、
ビジネス書の金字塔である『ビジョナリー・カンパニー』シリーズは累計1,000万部売れ
イゴール・アンゾフが提唱したフレームワーク“アンゾフの成長マトリクス”はビジネスの意思決定シーンで数え切れないぐらい引用され
経営学者のピーター・ドラッカーの著書も、ダイヤモンド社刊行のものだけで日本で累計400万部売れ、世界中の経営者の意思決定に影響を与えている
など、優れたコンテンツは極めて多くの人たちに良い影響を与えている。
人類史上最大のベストセラー『聖書』は1815年~1998年の183年間で約3880億冊が発行され、 2000年の1年間だけでも約6億3300万冊が発行されたと言われる。ざっと4,000億ユーザーに影響を与えたコンテンツだ。
自身の得意、不得意を考えても、プロダクトを作るよりも、コンテンツを作った方が社会に貢献できると考え、ビジョンとして“メソッドカンパニー”を掲げ、“コンテンツドリブン”な営業・マーケティング、採用活動で会社を運営している。
最後にかっこよく、AngelListの創業者でUberやTwitterなどへのエンジェル投資家として有名なNaval Ravikantの『The Almanack of Naval Ravikant』からの引用で締めたい。
Fortunes require leverage. Business leverage comes from capital, people, and products with no marginal cost of replication (code and media).
(中略)
Capital and labor are permissioned leverage. Everyone is chasing capital, but someone has to give it to you. Everyone is trying to lead, but someone has to follow you.
Code and media are permissionless leverage. They're the leverage behind the newly rich. You can create software and media that works for you while you sleep.
(中略)
If you can't code, write books and blogs, record videos and podcasts.富を作るには、レバレッジが必要です。レバレッジには、資本、労働力、複製コストがかからない商品(コードとメディア)があります。
(中略)
資本や労働力は、誰かの許可が必要なレバレッジです。誰もが資本を欲しがりますが、誰かが与えなければいけません。労働力は、周りがリーダーと認め、フォロワーを作らなければいけません。
一方、コードとメディアは、誰の許可もなく使えるレバレッジです。現代の富裕層を産み出したレバレッジは、まさにこれです。あなたが眠っている間にあなたのために働くソフトウェアやメディアを作ることができるのです。
(中略)
コードを書けないなら、コンテンツを作りなさい。
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