#44 常に上から考える。ベンチャー・キャピタリスト 世界を動かす最強の「キングメーカー」たち
5月4日に誕生した新生児の子育てにマインドシェアを取られ、ニュースレターの配信が滞りました。娘は予想以上に私に似て生まれたのですが、一昨日ぐらいから妻に似てきて、目まぐるしさに驚くばかり。
さて、今日は友人から紹介してもらった書籍『ベンチャー・キャピタリスト 世界を動かす最強の「キングメーカー」たち』を紹介したい。
米国のトップ1%に君臨するVCやアクセラレーターがどのように成功を収めているかを取材した本。事例が豊富でかなり面白かった。
1.印象に残ったこと
本書の中に「すべてのトップVCに共通するのは、スタートアップの創業者に価値提供するための、はっきりしたコンセプトがある点だ。それがブランドであったり、人脈であったり、専門性であったり、極めてクイックな資金調達であったりと、アプローチが異なるだけだ。」とあるように、トップのVCやアクセラレーターが持つコンセプトやアプローチは驚くほど千差万別だ。
以下は本書から抜粋した一例だが、各社がそれぞれのコンセプト、それぞれのやり方でスタートアップ投資に取り組んでいることがわかるだろう。
象徴的だったのは、ファースト・ラウンド・キャピタルの投資家がツイッターで「スタートアップの創業者に会ってから、投資条件を提示するタームシートを出すまでの時間を7日間にまで短縮している」とつぶやいたところ、Venrockの投資家が「それは凄いね。なぜなら私が投資を決めるまでの期間は、最近になって9カ月に伸びているから」と返信したエピソード。
双方ともトップ1%の投資パフォーマンスを誇る名門VCだが、スタートアップ投資に対してのアプローチは全く異なっている。
これ以外にも
投資カテゴリー
VCの運営人数や体制
投資実行までの期間
投資金額の規模
株式のシェアの取り方
投資するステージ
投資先への関与度
などは各VC・アクセラレーター間でバラバラだ。逆に、共通することは「各社が独自の仮説とそこから導かれるコンセプトを持っていて、勝ちパターンを確立していること」のみ。
つまり、VC運営においては
投資実行までの期間は長い方が良いのか、短い方が良いのか
投資カテゴリーは絞った方が良いのか、全方位に投資した方が良いのか
投資ステージはアーリーが良いのか、レイターが良いのか
VC運営は少数精鋭が良いのか、大人数が良いのか
などの議論に意味はなく、
自分たち独自の仮説は何か
そこから導かれる「コンセプト」は何か
「コンセプト」を実現するための「具体的なアプローチ」は何か
そして、それらが再現性高く成果を生んでいるか
を議論することが重要なのだろう。
個人的にこのようなコンセプトなどの上位レイヤーの話(ミッション・ビジョン・価値観・戦略など)から落とし込んで考える思考プロセスを「常に上から考える」と表現している。
何かをやるべきか、やらないべきか/やるとしたらどうやるべきかなどの各論を議論するときは、以下の図のなるべく上のレイヤーから落とし込んで考えると良い。
一般的な会社/事業運営において
ターゲット顧客はエンタープライズ企業か、中堅中小企業か
顧客サービスは最高品質にするか、十分な満足を提供できる程度にするか
従業員の給与水準を高くするか、市場平均程度にするか
マーケティング施策としてYouTubeをやるか、やらないか
などはそれ単体でメリデメを洗い出し、詳細を議論するのではなく、常に自分たちが掲げている上位レイヤーの話(ミッション・ビジョン・価値観・戦略など)との整合性で考えるべきだ。
例えば、「リモートワークが良いか、出社が良いか」は、それ単体でメリデメを議論しても究極的にはケースバイケースで決着がつかない。
しかし、「自社のミッション・ビジョン・価値観・戦略に照らし合わせたときにリモートワークが良いか、オフィス勤務が良いか」は決着がつきやすい。
才流なら「メソッドカンパニー」をビジョンに掲げており、メソッドの開発・蓄積が重要なため、オフィス出社よりもテキスト化が促されやすいリモートワークを選択している。
また、マーケティング施策も「テレアポが良いのか、コンテンツマーケティングが良いのか」は、施策レイヤーでメリデメを議論していても究極的にはケースバイケースで決着がつかない。
しかし、「だれに・なにを・どのように伝えるか」などのマーケティング戦略や「どんな人たちを採用するか」「採用した人たちのキャリアプランをどう設計するか」などの組織戦略から考えると決着をつけやすい。
「常に上から考える」は基準が明確なため、意思決定のスピードが早くなるし、会社の構造に沿うことになるため実行する際のスピードも速くなるメリットもある。
反対に「常に上から考える」ことをせず、「売上1兆円の会社を目指そう」と言っている会社で、成功率が高いからという理由で年商10億円規模の新規事業を企画しても空気が読めない人だと思われるし、「労働生産性を上げる」というミッションの会社で稟議の手続きが複雑でデジタル化されていなければ、社員クチコミサイト・Openworkに「言っていることとやっていることが違う」と書き込まれてしまうだろう。
本書を読んで、「常に上から考える」ために上位レイヤーの話(ミッション・ビジョン・価値観・戦略など)を明確にすること。そして、それらと日々の業務プロセスや制度の一貫性を作っていくことの重要性を再認識した。
※「#33 常に原点から考える。隠れた人材価値」でも似たようなことを書いた。
2. 抜粋とコメント
トップレベルのVCは、一見まったく異なる戦略によって、革新的なスタートアップを掘り起こしているようだった。人工知能やライフサイエンス、金融、気候変動などの専門分野に特化したVC。中国や北欧、南米、インドなど特定地域にいち早く目をつけたVC、または黒人や女性などマイノリティな起業家の可能性に絞っているVCもある。しかしすべてに共通するのは、独自の仮説によって勝ちパターンを見出すという「再現性」へのこだわりだ。
→本当にまったく異なる戦略ばかりで驚いた。
正直に言って、僕らもいつだって情報量に圧倒されていた。あまりにも多くのことが起きているため、すぐにでも呑み込まれそうだった。だからこそ優秀なチームに相談する。だからピーター・ティールも、世の中で最も大切だと考える仮説だけを追いかけているんだ。
→すべてに精通することはできないので、何に精通するかを決める必要がある。
一流のベンチャーキャピタルの多くは、わずか数十人のメンバーが小さなオフィスで働いている中小企業
→約65%のVCが失敗に終わるというデータが紹介されていたように全体としては難易度の高いビジネスだが、トップ1%のVCの労働生産性は凄まじい。数人、数十人で驚異的な金額を稼ぎ、個人としても何十億、何百億という天文学的なリターンを得ている。
ベンチャー投資は戦略こそが重要です。自分の価値観に沿う戦略を選んで、時間をかけて、ビジネスで圧倒的な優位性をつくるようにすべきです。なぜなら、世の中はあまりにも多くの資本と、アタマの良い人たちであふれているからです。
→「自分の価値観に沿う戦略を選んで、時間をかけて、ビジネスで圧倒的な優位性をつくるようにすべき」は良い言葉。メソッド化&コンテンツ発信をがんばっていきたい。
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