#45 成長はフィードバックを大量に得ることから。失敗の科学
今回紹介するのは、生物の進化やイノベーション、業界・企業の成長が「失敗から学ぶこと」によってもたらされることを解説した『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』。
いろいろな観点で面白く、紹介し切れないほど面白かった。
1.印象に残ったこと
本書では「失敗から学ぶこと」で進化している例として、航空業界が大々的に取りあげられている。
1912年には米陸軍パイロットの14人に8人が事故で命を落としていたらしいが(!)、2013年には欧米で製造された航空機の事故率はフライト240万回に1回。国際航空運送協会(IATA)に加盟している航空会社に絞ると事故率は830万フライトに1回と、航空機は100年ほどの間に極めて安全な移動手段になった。
その進化の裏側には、航空機に装備された「ブラックボックス」の存在があるという。
「ブラックボックス」とは機体の動作に関する飛行データとコクピット内の音声データを記録する、ほぼ破壊不可能な装置。もし事故があれば、「ブラックボックス」が回収され、データ分析によって原因が究明されたのち、同じ失敗が起こらないに対策が取られる。
航空業界では他にも
ミスの隠蔽を避けるため、事故調査のための独立の調査機関が存在
パイロットはニアミスを起こすと報告書の提出が必要だが、10日以内に提出すれば処罰されない決まり
設定した高度などを逸脱すると自動的にエラーレポートを送信するデータシステムが装備
かつ、そのエラーレポートのデータからは操縦士が特定されない
など、失敗を“学習の機会”と捉え、さらなる安全性向上が図られる仕組みが実装されている。
これと対比されていたのが医療業界で
医療事故が起こった際の日常的なデータ収集の仕組みがない
第三者機関による調査制度が最近まで実装されていなかった
新しい治療法がアメリカ国内の患者に適用されるまでに平均17年かかっているなど、改善策の浸透速度が慢性的に遅い
失敗を不名誉なものと捉え、ミスを隠蔽する文化がある
などがあり、筆者によると医療業界は失敗から学びにくい構造になっている。
結果として、アメリカでは毎年4万4000~9万8000人が回避可能な医療過誤によって死亡しているという調査があったり、別の調査では毎年100万人が医療過誤による健康被害を受けているという。
航空業界と医療業界では扱っているものが違うが、失敗からフィードバックを得るための「仕組み」と、フィードバックから学ぼうとする「マインドセット」については、当然、航空業界から学ぶべきものが多いだろう。
『#40 小さな改善の継続が大きな成果につながる』で紹介した通り、当社では“プロセス改善”と呼んでいる失敗や気付きを業務プロセスに反映する仕組みがあるが、航空業界のように10年、20年とこの仕組みを続けていこうと思う一冊だった。
2. 抜粋とコメント
我々が身に付けたすべての航空知識、すべてのルール、すべての操作技術は、どこかで誰かが命を落としたために学ぶことができたものばかりです。
→会社運営でも、過去の成功や失敗からの学びを活かしたいが、そのためには学びがストックされる仕組みが必要なように思う。
昔、ある会社の経営会議に出席した際、過去に何度も社内で議論されたであろうトピックに対して、役員陣がゼロベースで議論していた。「過去数十年間で何度も同じ議論があっただろうから、社内Wikiに議論の経緯と結果をストックしておけば良いのにな」と思ったが、その時の気付きから当社ではNotionを使って学びをストックすることを意識しているが、もっと後続の人たちに学びを継承する仕組みを考えたい。
人の失敗から学びましょう。自分で全部経験するには、人生は短すぎます。
→自分の経験から学ぶだけでは、スピードが出ないし、車輪の再発明が起きる。ついつい
①業務を進める
↓
②成功や失敗から学ぶ
↓
③すでにどこかで誰かが発見したセオリーを見出す
をやってしまいがちだが、本来は
①すでにどこかで誰かが発見したセオリーを学ぶ
↓
②業務を進める
↓
③成功や失敗から学ぶ
↓
④より良いセオリーを見出す
という順番が望ましいのだろう。
最近、ラクスルの松本社長が似たような話を投稿されていた。
一方、注意したいのは、ドラッカーの本や『7つの習慣』などの名著を社会人になりたての頃に読んでもさっぱりだが、30歳、40歳になって読むとやたら刺さる、というあの話。
これは10年、20年のビジネス人生によって自分の中に「経験」というデータベースが生まれ、書籍をインプットした際、そこに対してフィードバックがかかるようになったから学びが生まれる、という構造だと理解している。「経験」というデータベースがないのにインプットに励んでも、フィードバックがかかる対象がないから学べない。
つまり、「①すでにどこかで誰かが発見したセオリーを学ぶ」と「②業務を進める」を同時並行でやるのがベストなのだろう。
心理療法士のほとんどは、治療に対する患者の反応を、客観的なデータではなくクリニックでの観察によって判断している。しかしその信憑性ははなはだ低い。患者が心理療法士に気を使って、状態がよくなっていると誇張する傾向があることは、心理療法の問題としてよく知られている。(中略)治療の長期的な影響に関するフィードバックがまったくないのだ。だから心理療法士の多くは、時間をかけて経験を積んでも、臨床判断の能力が向上しない。
→結果を計測しないとフィードバックがかからず、スキルが上がらない話。施策をやりっぱなしにしてしまうことがあるので、改善していきたい。
試行錯誤の結果として発明やイノベーションが生まれ、それがのちに論理化・体系化されてきた
→経営やマーケティングの世界でも「理論が先にあり、試行錯誤と発明が後」と考えがちだが、実際は「試行錯誤と発明が先にあり、それが後から理論化される」の順番。
ユーザー参加型の開発戦略を用いたプロジェクトは、5年後に平均1億4600万ドルの利益を生み出した。これは従来の社内ブレインストーミング型プロジェクトによる平均利益の8倍に匹敵する
→3M社が商品開発のプロセスを変更したことによる結果。商品開発担当チームでブレストを繰り返して生まれた商品よりも、ユーザー参加型でユーザーからのフィードバックを得ながら開発した商品が圧倒的に売れた、という話。
マシンに優しいデザインかどうかは考慮せず、完璧な重量や空力設計についてもあえて考えませんでした。むしろ、早いうちに試作エンジンを用意し、それをテストしながら改善していきました。そういう学習プロセスを経たおかげで、世界で最も熱効率のいいエンジンを開発することができたんです。
→F1を勝ち抜いたメルセデスのエンジン制作チームの話。頭でっかちに設計するのではなく、まずは試作品を用意し、フィードバックから学んだことで最適なエンジンが開発できた。
真の無知とは、知識の欠如ではない。学習の拒絶である。
→哲学者カール・ポパーの言葉が紹介されていた。これぐらいかっこいい言葉を残してから死にたい。
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