#46 価値あるビジネスを続けるにはMoat(モート)が必要。千年投資の公理
今日紹介するのは、独立系投資リサーチ会社のモーニングスターで株式リサーチ部門のディレクターを務める著者が、ビジネスにおける堀(Moat)について解説した『千年投資の公理 ──売られ過ぎの優良企業を買う』。
Moatを築くためにビジネスをやっているわけではないが、価値があると信じるビジネスを長く続けるためにはMoatを築くべきだと理解できる本。
1.印象に残ったこと
本書の主張を要約すると“ビジネスの成長には経営者とか関係ないから、Moatのある企業が本来の価値より安く値付けされているときに投資すべき。Moatがあるビジネスは複利が効くから長期保有すると儲かるよ”である。
Moatは「堀」や「経済的堀」と訳される通り、競合他社から自社を守ってくれる継続的な優位性のこと。強度が高く、耐久期間が長い堀を持っている企業は、複利の力によって累積的に本質的価値が上がり続ける構造を持つ。
本書からいくつかMoatに関する記述を抜粋すると
堀とは長い時間をかけて構築されてきたビジネス上の構造であって、これをライバル企業が模倣するのは非常に難しい。
堀は、経営陣の優秀さに頼るものではない。つまり、配られたカードでどうプレーするかではなく、初めから持っているカードの方が重要なのだ。
①素晴らしい製品、②大きなマーケットシェア、③無駄のない業務遂行、④優れた経営陣-などが「誤解されている堀」の代表的なものだ。
もし堀が見つかれば、それがどのくらい強力で、どのくらいの経済性があるかを考える。何十年ももつ堀もあるが、さほど長持ちしないものもある。
などとある。そして、本書によるとMoatは以下の4種類しかないらしい。
ブランド、特許、行政の許可などの無形資産
スイッチングコスト
ネットワーク効果
生産過程や場所、規模、独自のアクセスなどによる構造上のコスト優位
世界一の投資家ウォーレン・バフェットは素晴らしい企業を適正価格で買い、長期にわたって保有する戦略で巨万の富を築いているが、「素晴らしい企業」かどうかの判断に「Moatの有無」が重要だと度々発言している。
バフェットはコカ・コーラに投資していて、コカ・コーラは世界一のブランド力などのMoatを持つ盤石な会社がゆえに「バカでも経営できるどころか、ハム・サンドイッチにも経営できる」とまで言っているらしい。
本書でも“成長企業には「経営者の判断は必要ない」”、“優れた企業は企業そのものが優れているのであって、経営者の資質は関係ない”という警句があるが、当社はまだMoatが不十分であり、ハム・サンドイッチに経営してもらえる状態を作れていないなと反省した。
※Moatに関しては以下の書籍とnoteもおすすめ。
・『競争戦略の謎を解く』
・Moat(モート): スタートアップの競争戦略概論
2. 抜粋とコメント
大きな利幅と急成長にすぐ目が行ってしまうが、本当に重要なのはこの大きな利幅の持続期間のほうだ。(中略)堀のある企業は時間とともに本質的価値が着実に上がっていくため、(あとから見れば)多少割高で買っていても、本質的価値の増加が投資リターンを守ってくれる。しかし、堀のない企業はライバル企業の追い上げをくらうと、本質的価値が急激に減少する可能性が高い(中略)さらに、構造的な優位性に頼れる企業は、一時的なトラブルから回復する可能性が高いため、堀を持つ企業には素晴らしい弾力性がある。
→競合や新規参入者がいても、構造上、必ず勝ち続ける状態を作ることが重要。
堀はいわゆる「自分の能力の範囲」を知る助けにもなる。たいていの場合、投資家は、投資先を自分がよく知っている分野(例えば金融サービスとか、ハイテク株とか)に限定するほうが、遠くまで網を投げるよりもうまくいく
→一朝一夕で築けるMoatはないし、少数の得意なビジネスに腰を据える方が良いのだろうなと。
企業の業績に与える経営陣の影響を調べた研究がいくつかあるが、業種やそれ以外のさまざまな要因を調整すると、その影響はさほど大きくないことがわかっている。これはほとんどの場合、ひとりの人間が大きな組織に与えることができる実際的な影響はそれほど大きくないことを考えれば理にかなっている。
→悲しきかな。
小規模で若い企業では経営陣の影響が大きいため、新興企業に関しては違うと思われるかもしれないが、シカゴ大学のスティーブン・カプラン教授はそれを否定している(中略)「新興企業に投資するときは、強力な経営陣よりも強力な事業に重点をおくべきだ」と結論付けている。
VCから出資を受けた50社程度を調査した元の論文『Should Investors Bet on the Jockey or the Horse? Evidence from the Evolution of Firms from Early Business Plans to Public Companies』をざっくり要約すると「成長を続けているビジネスにおいて、経営者や経営陣は頻繁に変わっていても、事業や差別化ポイント、顧客層は安定している。つまり、ビジネス(馬)と経営陣(騎手)でわけると、馬が良いから走っているのであり、騎手を変更しても良い馬は走り続ける」とのこと。
ブランド、特許、行政の許可などに共通点はほとんどない。しかし、経済的な堀と同様、これらはすべて本質的に同じ機能を持っている。市場で独自の地位を確立できるという機能だ。これらの優位性を持った企業は小さな独占企業であり、顧客から多くの利益を引き出すことができる。
→マーケティングの世界では「独自性のある商品」の重要性が語られるが、経営戦略・事業戦略のレイヤーでは、そこからさらに踏み込んで、競合他社に後から模倣されない独自性か、を考える必要がある。
ブランドが経済的な堀を築くのは、それが消費者のさらなる支払い意欲を促すか、もしくはさらなる顧客を囲い込める場合に限られる。ブランドを作り、維持するためにはコストがかかるので、価格決定力を得るか、リピーターによってその投資がリターンを生まなければ、それは競争上の優位性を築いたことにはならない。
→メルセデス・ベンツはブランド力があるが、それを維持するためのコストも高くついているので超過利潤が生まれていない、という例が有名。最近のメルセデス・ベンツの業績を見るとそうでもなさそうではあるが。
絶対的な規模よりもライバル社と比較した規模のほうがずっと重要だということを覚えていてほしい。
→忘れがちだが、大切なこと。
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