#5 経営者の「飽き」問題
先日、M&A仲介会社の社長と話した際、『仲介先の社長と接していて、10年以上、経営に興味を持ち続けられている人はほとんどいない』という話を聞いた。今回は経営者が20年、30年と経営を続けることの重要性とその方法について書いてみたい。
相次ぐ、有名経営者の引退ニュース
最近、2000年以降のIT業界を引っ張ってきた有名経営者の引退ニュースが続いている。
gumi國光さんの引退(2007年6月~2021年7月28日までの約14年間)
アドウェイズ岡村さんの会長職化(2001年2月~2021年6月30日までの約20年間)
アカツキ塩田さんの引退(2010年6月~2021年6月24日までの約11年間)
DeNA守安さんの代表取締役引退(2011年~2021年4月までの約10年間)
少し昔だと、シナジーマーケティングの谷井社長もYahoo!への会社売却後、代表取締役を退任し、2年間ほど放浪の旅に出ていた(現在は、Yahoo!から会社を買い戻し、取締役会長に就任)。
会社経営において、参入する市場、ビジネスモデル、戦略、組織などはよく語られるテーマだが、M&A仲介会社の社長が『10年以上、経営に興味を持ち続けられている人はほとんどいない』と言うように、会社経営の前提条件として『経営者が経営を長く続けられるか』も重要なテーマだろう。
偉大な会社を作るには『複利』が必要
なぜ『経営者が経営を長く続けられるか』が重要なテーマかというと『複利』の力があるからだ。
複利は、元本に対して利子がつく単利と違い、前年の利息を元本に組み入れた分に対して利子がつく。アインシュタインは「複利は人類による最大の発明だ」と言ったらしいが、継続期間が長ければ長いほど、複利の効果は絶大になる。
努力論の中でよく語られる『昨日よりも1%ずつ改善すれば、365日後には1.01の365乗で37.7834343になるから、毎日少しでも良くなりましょうね』というあの話だ。複利によって、途方も無いことが成し遂げられるし、事前には想像もしなかった景色を見ることができる。
経営者として複利の力を借りるためには、当然、経営を長く続ける必要がある。しかし、M&A仲介会社の社長が『10年以上、経営に興味を持ち続けられている人はほとんどいない』と指摘するように、経営に興味を持ち続けることは予想以上に難しく、見落としがちなテーマだ。
経営の「べき論」では、経営者は戦略立案やミッション・ビジョン・バリューの策定や浸透、経営上のボトルネックや最優先事項にリソースを割くべき、と言われる。しかし、「経営に興味を持ち続ける」という観点では、経営者自身が興味を持てるテーマに取り組んだり、好きな業務を担い続けることも必要になるだろう。
興味関心がある仕事をやる
例えば、高級ホテル・旅館予約サイトの一休.comの社長は、仕事の7割をデータサイエンティスト業務にあてているらしい。
時間を投入している割合でいうと、社長業は全体の3割くらい。社長の仕事は何と言われたら、会社の将来や全体の戦略などを考えることでしょうが、具体的に担当先を持っているわけではないし、出社したら、これをやらないといけないという仕事があるわけでもない。時間はたくさんあるわけです。ならば、自分の場合はデータサイエンティストとして働くことが、最も会社に貢献できる。そう考えた結果が今のスタイルというわけです。
※出典:【一休 社長】社長業3割、データサイエンティスト7割
#3 業績の悪い企業に共通する死亡フラグ、「衰退の法則」で取り上げた優良企業のR社においては、『オーナー自身が直接意思決定に関与する領域は、①事業計画や大規模な投資、組織変更といった経営の重要事項と、②個人的にこだわりを持つ特定の事業分野の二種類となっている。』という。
また、知り合いの敏腕経営者は、創業初期に営業活動に多くの時間を割いていたが、途中からは全ての商談を営業部門に任せたらしい。理由は、営業活動を通して様々な業種やビジネスモデルを知ることができて面白かったが、途中からはパターン化され、つまらなくなってしまったから、とのこと。逆に、営業活動に強い興味関心を持ち続ける経営者もいるはずで、自分がどんなテーマや業務に興味関心を持つかを自覚して、日々の仕事をデザインできると良いだろう。
私の興味関心
自分自身は業務の中で『再現性高く成果が出る仕組み作り』に強い興味関心がある。
過去を振り返っても、中学・高校時代にハマっていたテニス部の活動では、テニスそのものより部員の練習メニュー作りが楽しかった。その後の大学受験でも、勉強そのものよりも大学に合格するための勉強計画作りに熱中した。社会人になってからも、個人としての成績には興味が持てなかったが、チームとして再現性高く成果を出すためのプロセス作りには一貫して惹かれていた。
株式会社才流の経営でも従業員数が増えるに従い、急速に仕事が楽しくなっているのを感じる。規模が大きくなればなるほど、練習メニュー作り、勉強計画作りに似た仕事(経営においてはビジネスモデルや業務の仕組み、ガバナンス作りなど)の比重が増すからだろう。10年以上前、部活の練習メニューを作るために強豪校の練習メニューを調べていたときと同じように、優良企業のビジネスモデルや業務の仕組み、ガバナンスを調べることに熱中している。
『経営者が興味関心がある仕事をすること』は短期では非合理かもしれないが、中長期では『複利』の力によって、極めて合理的な判断だった、と評価されるのだろう。あと30年は興味を持って、経営を続けていきたい。
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