#50 参入障壁は徐々に築かれる。7 POWERS――最強企業を生む7つの戦略
今日紹介するのは、事業が競争優位を持ち続けるための7つのパワーを解説した『7 POWERS――最強企業を生む7つの戦略』。
パワーは「持続的な差分リターンの潜在能力を創出する条件の組み合わせ」と定義されていて、要は「競合他社の参入があっても、自社が儲け続けるための要素の組み合わせ」のこと。
近い概念に「Moat(モート)」があり、ビジネスにおける「堀」や「経済的堀」と訳される。本書はMoatへの理解を深めるために読んだが、新しい発見がいくつかあった。
※Moatについては#46 価値あるビジネスを続けるにはMoat(モート)が必要。千年投資の公理でも書いた
1.印象に残ったこと
本書では「7 POWERS」として
規模の経済:事業規模の拡大を活かす
ネットワーク経済:利用者増大による便益の向上
カウンター・ポジショニング:競合が模倣できないポジショニング
乗り換えコスト:他社へ乗り換えられないための防御策
ブランディング:長期にわたる顧客からの信頼
競合なきリソース:特許や人脈など独自の資産
プロセス・パワー:組織内で着実に構築されてきた見えないプロセス
が紹介されている。パワーに近い概念であるMoatは「競合他社から自社を守ってくれる継続的な優位性」と説明され
ブランド、特許、行政の許可などの無形資産
スイッチングコスト
ネットワーク効果
生産過程や場所、規模、独自のアクセスなどによる構造上のコスト優位
の4つが挙げられることが多い。
7 POWERSには、Moatにはない「カウンター・ポジショニング」と「競合なきリソース」が含まれている。
特に「競合なきリソース」の中に“人脈”があり、アニメーション・スタジオのピクサーを例に、ジョン・ラセターやエド・キャットムルなどの超天才が集まる場所をパワーとしている点が面白かった。
他にも
優れた会社の発展は直線的ではなく、むしろステップ関数的
とあるように
パワーは徐々に発明されていく
パワー獲得の順番としてはカウンター・ポジショニング、競合なきリソース→規模の経済、ネットワーク経済、乗り換えコスト→プロセス・パワー、ブランディングとなることが多い
強いビジネスは複数のパワーで成り立っている
という指摘も新鮮だった。
例えば、プロセス・パワーを獲得している企業としてトヨタが挙げられていたが、ジャスト・イン・タイム、カンバン、アンドンなどの「トヨタ式生産」を構成する要素は初期に一気に発明されたのではなく、徐々に発明されている。
そして、プロセス・パワーを獲得した結果、品質に対する信頼が高まり、プロセス・パワーだけでなく、強いブランドも手にしているのがわかりやすい事例。
2. 抜粋とコメント
オペレーショナル・エクセレンス【各人の業務遂行能力が洗練されていき効率的になることで優位性を持つこと】は戦略ではないのだ。
オペレーショナル・エクセレンスは必要なものだし、当然、経営陣が重要視すべきものである。(中略)競合相手はオペレーショナル・エクセレンスによって生み出された改善行動であれば、簡単に真似することができてしまう
→オペレーショナル・エクセレンスとプロセス・パワーの違いは、後者は長い時間をかけることによって“のみ”手に入るものだと説明されている。長い時間をかけた先に複雑性が高く、とてもすべてを説明しきれない程のプロセスが生まれ、それは競合他社が容易に真似できないものになる。
逆に、例えばABテストを繰り返すことでWebサイトのUIを最適化したとしても、競合相手はそのUIを簡単に真似できてしまうため持続的な競争優位とはならない。
※長い時間をかけることによって生まれる効果をヒステリシス、履歴現象と言うらしい
有能なノイスとムーア、そしてアンディ・グローブのもとであれば、オペレーショナル・エクセレンスは当然存在したはずである。そうなると、違いを生んだのはパワーだったことになる。
→インテルがメモリー事業からは撤退を余儀なくされ、マイクロプロセッサー事業では世界No.1になったことを例に出しての指摘。パワーがない事業では伝説的に優秀な経営チームがいても、儲け続けることができない。
事業の初期段階では参画する程度にとどめ、状況次第で条件に合わせて変わっていくことが求められる。通常これには長い時間が必要で、アドビの例でも5年かかったように、紆余曲折を経ることになる。だから、すべてを賭けて先進するなどというリスクは避けるべきだ。新規事業に対してほかに類を見ない斬新なものだからと、入れ込みすぎてしますと、その事業のために外部の資金をあてにするようになる。
→著者が関わっていたNetflixでもインターネットストリーミングの可能性は早い段階から認識していたが、DVDレンタル事業から一気に転換することはせず、総収入の1~2%を投資しながら徐々にビジネスモデルを転換したらしい。
新規事業や新領域には段階的に参入し、機会やパワーを発見した後に本格的に参入すべき、という話。
そもそもパワーがどのように確立されるのかを一歩下がって考えると(中略)リーダーシップ、時期、業務執行、賢明さ、運、そのすべてが、決定的な役割を果たす
→画期的製品、魅惑的ブランド、革新的事業モデルなどを思いつくことからパワーの獲得ははじまるらしいが、そのためにはいろいろ必要とのこと。
どのパワーも最初は「発明」からはじまっている。
→私もなにか「発明」したい。
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