お久しぶりです。数年ぶりにスマッシュヒットした本に出会ったので読書メモがてら配信。
今回紹介するのは『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』。超大型ITプロジェクトや原子力発電所、高層ビルの建設などのメガプロジェクトの成功、失敗の法則を扱った書籍だが、本書の内容はそのまま起業や新規事業立ち上げの教科書としても使えると感じた。
これまで様々な起業や新規事業に関する本を読んできたが、0→1の再現性を上げてくれる観点では、現時点では本書がベストである。
1.印象に残ったこと
本書のキーメッセージは、『ゆっくり考え、すばやく動く』だ。すばやく動く前に、しっかり計画・検討・シミュレーション・試行錯誤しておくことで、メガプロジェクトの成功率が飛躍的に高まる、という話が様々なデータや事例とともに紹介されている。
具体的には
プロジェクトの目的を明確にする
目的から逆算して、適切な手段や方法を選択する
先行事例を調べ、計画に反映する
経験ある人材、経験あるチームを招聘する
反復的なフィードバックサイクルを回し、アウトプットを研ぎ澄ませる
速やかに実行する
などが重要だという。これを起業や新規事業に当てはめると
何のために会社や事業をやるのか、何を実現したいのか、の目的を明確にする
目的から逆算して、適切な事業やビジネスモデル、実現までの方法を選択する
同様のことをやっている先行企業を調べ、計画に反映する
同様のことをやった経験がある人材、チームを仲間に入れる
事業計画立案、プロトタイピング、テストマーケティング、PoCなどのフェーズで試行錯誤して事業や商品を研ぎ澄ませる
予算と人的リソースを割り当てて、一気に立ち上げる
が重要となる。逆に
目的を曖昧にしたまま、起業や新規事業に取り組む
逆算ではなく、順算、積み上げ、成り行きで会社や事業を伸ばそうとする
自社はユニークな存在だと捉え、先行事例を調べない
経験者を採用しない。未経験の自分たちだけでやろうとする
事業計画を立てず、プロトタイピング、テストマーケティング、PoCなどをせず、いきなり事業や商品を作り始める
予算と人的リソースを割り当てずに、ダラダラと進める
をやると再現性高く失敗してしまう。
世の中で言われる「まずやってみよう!」「やってみないとわからない!」「行動が大事!」とは真逆で、「まずは緻密に計画を立てよう」「やらなくてもわかることがたくさんあるよ」「計画・検討をした上での行動が大事だよ」という話である。
2. 抜粋とコメント
大型プロジェクトの実績は想像以上にひどい。だが解決策はある。急がば回れだ
→急いだ実行、行動は仕事した感が出てしまうから恐ろしい。
大型プロジェクトが予算と工期をオーバーし、便益が期待を下回る確率は非常に高く、その信頼性は高い。
→事業計画上の予算と達成までの期間をオーバーし、売上や利益などの便益が期待を下回る確率が非常に高いのは起業や新規事業も一緒。
予算内・工期内に完了するプロジェクトは、全体の8.5%に過ぎない。予算・工期・便益の3点ともクリアするプロジェクトは、わずか0.5%だ。
→スタートアップの起業家養成スクール「Y Combinator」の創業者、ポール・グレアム氏が『スタートアップの成功確率は7%であり(成功の定義は最低40億円以上の企業価値をつけること)、DropboxやAirbnbなどのように大化けする確率は0.3%ほど』だと語っているのを思い出した。
失敗するプロジェクトはズルズル長引きがちだが、成功するプロジェクトはスイスイ進んで完了する。
→PMFした事業は市場や顧客に引っ張られるように成長していくのと一緒。PMFしていない事業をダラダラと伸ばそうとするのではなく、まずはPMFさせることが大事。
プロジェクトというプロジェクトが、形だけの性急な計画立案を経て、すばやく始動する。計画が実行に移されるのを見て、誰もが満足する。だが計画フェーズで見過ごされ真剣に検討されなかった問題がすぐに露呈し、急いで事態の収拾に奔走する。するとまた別の問題が発生し、さらに奔走する。
→グサ、グサッ。
計画立案の前進は、プロジェクトの前進、それも最もコスト効率の高い前進だ。
→調査や計画フェーズが一番お金と時間がかからない。実行フェーズは何をするにもお金と時間が必要になってしまう。
よい計画を立てた結果として「ゆっくり」になるのであって、「ゆっくり」すればよい計画ができるのではない。よい計画を生み出すのは、幅広く深い「問い」と、創造的で厳密な「答え」である。
→当たり前だけど大切な視点。スピード感を持って、緻密な計画を立てる。
プロジェクトは、それ自体が目的であることはなく、目的を達成する手段に過ぎない。(中略)プロジェクトを始めるときには、手段と目的のもつれをほどいて、「自分は何を達成したいのか?」をじっくり考え、心理メカニズムのせいで性急な結論に飛びつきたくなる衝動に、なんとかしてストップをかけなくてはならない。
→プロジェクトという「手段」を前に進めることで満足してはいけない。プロジェクトによって「目的」が達成されてはじめて満足すべき。
フローチャートを「逆」から埋める
→フローチャートを左側から右側に埋めるのではなく、ゴールである右側から左側に逆算した計画を立てる。
人間は何かを一発で成功させるのがとても苦手である。その反面、工夫を積み重ねるのはとても得意だ。賢明な計画立案者は、人間のこの基本的性質を踏まえて、施行と学習を何度もくり返す。
→最近読んだ別の本に『マスタープランは人智を超える』という言葉があった。要は人間に完璧な設計・実装はできず、不完全なものしか作れない。しかし、完璧を目指して改善する努力はできる、という話。完璧な設計・実装をすることではなく、完璧を目指して改善する努力にコミットする。
専門用語で言えば「経験的学習」である。人間は工夫を積み重ねて学ぶことに長けている。
→1つの事業を腰を据えてやっていくことの重要性を感じる。5年、10年と同じ事業をやって、経験から学び、工夫を積み重ねるから提供価値が上がっていく。
計画立案での「実験」では、プロジェクトのシミュレーションを行う必要がある。条件をいろいろ変更して、どうなるかを模擬体験する。右端のボックスに到達する助けになる有効な変更は残し、無効なものは捨てる。こうした試行錯誤と真剣な検証を経て、シミュレーションはクリエイティブで厳密で詳細な計画、つまり信頼性の高い計画になるのだ。
→優れた起業家の事業計画策定のプロセスに似ている。
「反復は学習の母」なのだ。よい計画は、実験または経験を周到に活用する。優れた計画は、実験と経験の両方を徹底的に活用する。
→やりながら学んで、それを計画に反映するプロセスも必要。
ピクサーの監督は、アイデアを探し、映画のコンセプトを練り上げるのに、数ヶ月かけることを許される。
→アイデア探しやコンセプト作りなど、一見なにも進んでないように感じるプロセスを許容する。起業や新規事業でも同様に重要な視点。とりあえず始めない。
計画を立てる間に、打てるだけの手を打っておこう。そして、計画はエクスペリリ(実験+経験)をもとに、ゆっくり、徹底的に、反復的に立てよう。
→前述の通り、このフェーズが最もコスト効率が高い。
計画立案は「能動的なプロセス」である。計画立案には「行動」が伴う。アイデアを試し、機能するかどうかを確かめ、その学びを踏まえて別のアイデアを試す。
→パソコンの画面とにらめっこしているだけでは駄目ですよー、という話。
経験豊富なチームを率いる経験豊富なリーダーに勝る資産はない。(中略)経験豊富なプロジェクトリーダーが「ピクサー・プラニング」の反復性の高いプロセスを用いれば、鬼に金棒だ。
→ビジネスの世界で経験は過小評価されているように思う。経験者採用は難しいが、経験者を採用をしないと失敗してしまう。
反復的な「ピクサー・プラニング」のプロセスを取り入れて、可能な限り実験しよう。単純な試行錯誤から、スケッチ、積み木や段ボールの模型、映画のラフ、シミュレーション、実用最小限のプロダクト、仮想最大限のプロダクトまでのあらゆる手法を総動員して、大きなアイデアから小さな詳細までのすべてを検証しよう。
→ピクサーは脚本から社内向けの試作映像上映までのサイクルを8回も繰り返してから、作品を公開するらしい。
失敗の根本原因は、実行以外の部分、実行が始まるずっと前の「予測」にあることが多いのだ。(中略)プロジェクトが計画通り進まないのは予測ではなく、実行に問題があるからだと思い込んでしまう。
→だいたいのことは事前に調べて、考えればわかる。調べたり、考えたりする負荷が高いから、楽な実行を選んでしまう。
緻密に計画を立てる目的は、創造性によって打開しなくてはならないような、絶望的な状況を避けるためなのだ。周到な計画は創造性を奪うどころか、むしろあと押しする(中略)創造のひらめきを活かすべきときは、実行フェーズではなく、計画フェーズである。リスクもストレスもない状況なら、自由に思いをめぐらせ、試行し、実験することができる。計画フェーズにこそ創造性は宿る。
→組織も仕組み化されていると創造性が減ってしまうのではなく、仕組み化されているからこそ個々人が創造性を発揮できるのと同じ。
私の知り合いに、数十億ドル規模のITプロジェクトを次々と手がけている、引く手あまたのマネージャーがいる。(中略)彼が助っ人を引き受ける条件は何か?自分のチームを連れて行けること。これがよいチームをつくる彼の方法である。百戦錬磨の実行部隊には千金の価値がある。
→熟練のチーム is 大事。ハーバード・ビジネス・スクールのBoris Groysberg教授の興味深い実験を思い出した。
ウォール街の投資銀行で働く1,000人以上の花形アナリストが転職した後の様子を調査したところ、別の会社に移った後の5年間は転職前より低い成績になった。一方で、チームごと転職した場合、花形アナリストの成績は落ちなかった。花形アナリストが転職しても成績が落ちなかったり、むしろ上昇したケースはほぼ例外なく、 チームメンバーと一緒に移籍したらしい。
小さいものを積み上げて巨大にする。
小さいもの、つまり基本の構成要素を手に入れよう。あなたのほしいものができるまで、それをどんどん組み合わせていこう。(中略)モジュール性は工期を縮め、コストを下げ、品質を高めるから、どんな種類と規模のプロジェクトにも役立つ。都市や国、世界を変えてしまうほどの、正真正銘の巨大プロジェクトにとって、モジュール性はただ役立つだけでなく、必要不可欠である。
→一気に巨大なビルを作ろうとするのではなく、1つの部屋(=モジュール)を作ろう、それを組み合わせて巨大ビルを作ろうとした方が成功しやすい。
小さいことはよいことだ。なぜなら、小さいプロジェクトは単純だからだ。
→押忍!
久しぶりにニュースレターが読めてよかったです^^またご無理のない範囲でぜひよろしくお願いします!