#38 僕たちのPMFの話をしようか。才流編
昨年から今年にかけてMarkeZineというメディアで、有名スタートアップの創業からPMFまでの過程を取材した『僕たちのPMFの話をしようか』を連載していた。
PMF(Product Market Fit)とは「マーケットニーズを満たすプロダクトで、正しい市場にいること」と定義される。わかるようなわからないような表現だが、要は商品が一気に売れるようになったり、顧客がとても喜んだりするようになる状態がPMFといえる。
“PMFがある前は、大きな岩を押しながら山を登っている状況。PMFを見つけた後は、山頂を超えて大きな岩が転がるのを追いかけている状況”という比喩が個人的にはしっくり来る。
当社は主にBtoBマーケティングや法人営業のコンサルティング会社だが、提供しているサービスは(まだまだ改善点は大量にあるものの)PMFしていると認識している。2022年9月に翔泳社から『新規事業を成功させる PMFの教科書』を出版することもあり、今回は『僕たちのPMFの話をしようか』の才流版を書いてみたい。
PMF前夜
株式会社才流は2016年7月に設立した会社だ。
創業事業として、企業とフリーランスのマッチングサイトを立ち上げたが、全くPMFしていなかった。PMFしていない事業だったため、銀行の法人口座の残高が4桁になったり、顧客も喜んでなかったり、組織もうまくいっていなかった。
色々と自問自答した結果、マッチングサイト事業は人生を賭けてやりたいことではない、という結論に達し、会社設立から約1年半後にマッチングサイト事業を売却。事業も人も実質なにもなくなった状態から立ち上げたのが、現在の主軸であるコンサルティング事業だ。
とはいえ、コンサルティング事業も最初からPMFしたわけではなく、最初は新規事業開発の支援、SEOやUI改善のコンサルティングなど雑多に依頼を引き受けながら試行錯誤をしていた。半年近く、良い切り口が思いつかず、どんな事業にしようかを考えていた。
アイデア着想のきっかけ
そんな折、日本でSaaS(Software as a Service)が盛り上がっており、BtoB SaaSの市場規模が2025年には10,000億円以上になりそうだ、というBOXILのレポートがネットサーフィン中に目に止まった。
想像以上に大きいなと思ってSaaSについて調べていくと、海外含め成長しているSaaS企業は売上の40%以上をSales & Marketing(セールス & マーケの人件費や広告宣伝費)に使っているというデータがあり、10,000億円のうちの40%にあたるMAX4,000億円がBtoBのセールス & マーケ領域に流通するのでは、という仮説を持った。
前職でBtoB企業のWebマーケティング支援をしていたこともあり、才流設立後もBtoBマーケティングに関する相談は度々いただいていた。
しかしながら、正式な事業化を躊躇していた背景に“日本ではBtoBマーケティング支援をしている会社で年商数十億円以上の企業が存在せず、十分な市場規模がないかもしれない”という不安があった。
BtoCのマーケティング支援会社では電通、博報堂、サイバーエージェントなど、様々な会社が年商数百、数千億円以上になっている。彼らの特徴はEC、化粧品、ゲームなど、売上に占める広告宣伝費の割合が高い業界の顧客を抱え、巨額の売上を稼いでいることだ。
SaaS市場のレポートを読みながら、BtoCのEC、化粧品、ゲームなどと同じように、BtoBにも売上に占める広告宣伝費の割合が高い業種がついに生まれたかもしれない。ついては、BtoBのマーケティング支援会社でも一定規模の売上が立つのではないかと考えた。
「BtoB SaaSのマーケティング支援市場にいれば、私含め数人が生きていける事業にはなるだろうし、ニーズも急になくならないだろうな」と思い、「BtoBマーケティングのコンサルティング」というカテゴリーで市場に参入することを決意した。
以下では、顧客・自社・競合の3つの観点でどのようにサービス内容の詳細を詰めていったのかを解説したい。
顧客の観点
BOXILのレポートから十分な市場規模は感じながらも、マクロトレンドの情報だけではサービス内容は決められない。まずはどのような顧客の課題に応えるかを考える必要があった。
私は2008年頃からBtoBマーケティングに関わり、前職ではBtoB企業のWebマーケティング支援をやっていた。数百人のBtoB企業の経営者・マーケターと会ってきたが、彼ら・彼女らがよく口にしていたのが、
BtoBマーケティングに詳しい人がいない
施策の相談ができる会社はあるが、戦略の相談ができる会社がいない
特定の施策に詳しい会社はあるが、幅広く相談できる会社がいない
支援会社から提案がなく、言われたことしかやってくれない
などだった。これらの声から「BtoBマーケティングの戦略から入り、施策に関するノウハウも網羅的に持ち、何をやるべきかを積極的に提案できる会社」を作れば、ニーズがあるのではと思った。
何より前職で自社事業のBtoBマーケターをやっていたときに、
誰に
どんなメッセージを発信して
どの施策に
どれぐらいの予算をかけるべきか
それをどんな体制でやるべきか
を相談できる会社がないなーと思っていた。「BtoBマーケティングの戦略から入り、施策に関するノウハウも網羅的に持ち、何をやるべきかを積極的に提案できる会社」を作れば、過去の自分も助かっただろうなと思った。
自社の観点
市場規模は大きく、顧客が抱える課題やニーズの検討もつく。
次はそれを自分たちが提供できるか、経済性(規模と収益性)のある事業として展開できるのかを検討した。
まず自分たちが提供できるかの観点だが、前職で6、7年間、BtoBマーケティングに関わり、業界ではそこそこ有名なオウンドメディアを運営し、イベント登壇や雑誌寄稿などをしていたこともあり、知識、スキルは一定あると判断した。
経済性の観点では、前職でやっていたBtoB企業のWebマーケティング支援事業の中で一番満足度が高く、一番成果が出ていて、粗利率も高い案件が、当時私が担当していたコンサルティングサービスだった。
そのサービスは時給換算で10万円程度で売れていて、当時、日本で一番高い戦略コンサルタントの時給が15~20万円だとどこかのブログで読んだ記憶があり、それと同じぐらいだし、まぁきっと儲かるだろうと思った(今ならもうちょっと精緻に計算するが)。
また、少し先の話として、自分たちがサービスを提供でき、経済性が良かったとしても、興味を持って長い期間続けられなければ一過性の事業で終わってしまう。その点では、会社のビジョンに掲げている『メソッドカンパニー』とコンサルティングサービスの相性は極めて良さそうで、BtoBマーケティング以外の領域にも広げれば、一生飽きずに続けられるだろうと考えた。
競合の観点
最後に後発で市場に参入してシェアを獲得できるか、を検討した。
これに関しては前職時代に(競合にあたる)広告代理店、Web制作会社、デジタルマーケティングの支援会社の経営層、幹部層と話す機会が度々あり、皆さん異口同音に『社内に戦略を作れる人がいない or 数名しかいない』と言っていたのが印象に残っていた。
「戦略を作れる人をたくさん揃えたら競合優位性が作れそうだな」と思ったし、経済学では“差異が利潤を生み出す”と言われるが、利潤(利益、儲け)を生み出すための「差異」として良さそうだなと思った。
上記のような顧客・自社・競合の観点を考え、後発で参入しても生きていけるかもしれないと考え、“ドーナツの真ん中”をコンセプトに掲げ、BtoBマーケティングのコンサルティングサービスを開始した。
サービス開始後にPMFに近づいたアクション
サービスを開始した後は様々な試行錯誤を経て、PMFに近づいていったが、PMFが近づいたと感じたいくつかの出来事を紹介したい。
1つ目は、コンサルティングプロセスの体系化。
コンサルティングのような高額無形商材は「何をやってくれるのかわからない…」という不安が顧客の中に存在する。その不安を払拭するために提供サービスを見える化しようと、コンサルティングプロセスを体系化し、納品する資料のフォーマットを商談時に顧客に説明するようになったことで受注率が向上した。
2つ目は、書籍の出版。1つ目と同じく、高額無形商材に対して顧客が抱く「何をやってくれるのかわからない…」という不安解消に役立った。書籍きっかけの認知で問い合わせが増えただけでなく、受注率も向上した。
・『事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践』
・『マーケター1年目の教科書』
3つ目は、2020年以降のコロナ禍。オフラインのチャネルが使えなくなり、テレアポしてもつながらない、展示会が中止になった、セミナーを開催しても人が集まらないなど、オンラインの営業・マーケティングチャネルを開拓することがBtoB企業の至上命題になった。
ほぼ全ての企業がオンライン営業、デジタルマーケティング、営業・マーケティングのDXに取り組み始め、当社へのBtoBマーケティングの相談が増えた。社会環境の変化で市場の課題やニーズが高まったのを感じた。
PMFストーリーを通じて
自社のPMFストーリーを整理する過程で思ったのは、粗い仮説でスタートしたが、
代表の私が10年近くいた業界だったため、顧客解像度、業界解像度が高く、大外れはなかった
伸びている市場だったため、サービス改善の機会を多く得られた
採用がうまくいき、サービス改善が素早く進んだ
というあたり。もう一度やるなら、見込み顧客インタビューや既存顧客インタビュー等でもっと早く顧客の声を聞きに行くだろう。いまは様々な手段で顧客の声を拾いに行く仕組みがあるが、本ニュースレターに書いた通り、大部分が私の頭の中で立てた仮説であり、検証していなかったのは反省点だ。
現在、BtoBマーケティング以外の様々なコンサルティングメニューを開発しているが、上記の反省に基づき、コンサルティングメニュー開発のプロセスを体系化し、十分なリサーチや検証を重ねた上でリリースするようにしている。
ということで当社のPMFストーリーを書いてみたが、(私の執筆が進めば)2022年9月に発売予定の『新規事業を成功させる PMFの教科書』では、成功している事業のPMFストーリーやPMFに至るための具体的なノウハウを多数掲載予定です。(私の執筆が進めば)2022年9月に発売予定なので、ぜひ楽しみにお待ちください。
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