#20 才流の成長戦略における注力テーマの推移
今日は株式会社才流(サイル)の成長戦略における注力テーマの推移とその時々で意識してきたこと、これからの3年間で意識していくことを解説したい。
まだまだ小規模な会社で今後もどれぐらい成長できるかは不明だが、事業戦略の一つのケーススタディーとしてご覧いただければ幸いだ。
これまでの3年間の注力テーマ
株式会社才流は2016年7月に設立した会社だ。創業期は今とは別の事業(企業とフリーランスのマッチングサービス)をやっていたが、設立から1年半後に創業事業からは撤退。事業も人も実質なにもなくなった状態から立ち上げたのが、現在の主軸であるBtoBマーケティングのコンサルティング事業だ。
2018年4月から本格的に事業を開始し、これまでは案件獲得の仕組み作り、サービス品質の向上などに取り組みんできた3年間だった。今後は、BtoBマーケティングだけでなく、新しいコンサルティングメニューの開発を加速させていく予定だが、そもそも「なぜBtoBマーケティングのコンサルティング事業に参入したのか?」から解説したい。
コンサルティング市場に参入した理由
創業事業から撤退した後は、人もお金もなくなり、これからどうしようかと考えていた。
個人としては、「才流」という社名の由来である「才能を流通させる」こと ー すなわち「人類の潜在能力の発揮」に一貫して興味があった。
しばらく内省を重ねた結果、「人類の潜在能力の発揮」を支援するためには、再現性の高い方法論(メソッド)を流通させることが最善の手段だと考え、メソッド開発・発信を通じて世の中に貢献する会社にするべく、『メソッドカンパニー』というビジョンを定めた。
『メソッドカンパニー』になるためには、メソッド(フレームワークやチェックリスト、テンプレートなど)の開発・発信が重要だが、現実問題として、メソッド開発・発信に対して、顧客がお金を払ってくれるイメージはわかない。
であれば、メソッド開発・発信に対して直接対価をもらうのではなく、何らかの事業を営みながら、その過程で開発できるメソッドを発信しようと考え、相性の良さそうなコンサルティング市場に狙いを定めた。
しかし、コンサルティング市場には既に多くの競合企業が存在するため、どのように市場に参入すべきかは慎重に考える必要があった。
最初はコンサルティング市場で真っ先に思い浮かぶ「経営コンサルティング」領域にシンプルに参入することも考えた。しかし、経営コンサルティング領域は大手企業向けにはマッキンゼー、BCG、アクセンチュアなどの外資系コンサルティングファーム。中小企業向けには船井総合研究所、タナベ経営、山田コンサルティンググループなどの強力なプレーヤーが存在し、代替手段として「経営顧問」なども存在する。
また、当時、経営者である私が20代後半であったこと、それまでの経験としても経営コンサルティング業務の経験がないことから、“Founder Market” Fitと呼ばれる創業者と市場の適合性が不十分だなと思っていた。
たまたま見つかった参入角度
そんなことに悩んでいる中で、前職時代ずっとBtoB企業向けのマーケティング支援をやっていたため、才流設立後も昔のお客様からたびたび仕事の依頼や紹介をいただくことがあった。結構な数の仕事の依頼や紹介をいただく中で、「BtoBマーケティングのコンサルティングを希望している人たちは一定数いるのだな」という印象を持っていた。
加えて、『#17 あらゆる領域で起きているドーナツ化現象』で解説した通り、BtoBマーケティングにおいて取れる手段や導入できるツールは日々増えているが、最も重要なはずの
だれに、なにを、どのように伝えるか
どれぐらいの予算で、どれぐらいの成果を見込むか
どのような体制を組むべきか
などの“そもそもの部分”を相談できる会社がいない…という前職のマーケター時代に思っていた課題を思い出し、「BtoBマーケティングのコンサルティング」から参入するのはアリなのでは、と考え始めた。
顧客の課題・ニーズがあることはわかり、サービスを提供できる感覚はあったが、次に気になったのは「十分な市場規模があるか?」だった。
日本ではBtoBマーケティング支援をしている会社で数十億円以上の売上規模になっている企業が当時存在せず、十分な市場規模がないかもしれない不安があった。
BtoCのマーケティング支援会社では電通、博報堂、サイバーエージェントなど、様々な会社が数百、数千億円以上の売上規模になっている。彼らの特徴としては、EC、化粧品、ゲームなど、売上に占める広告宣伝費の割合が高い業界の顧客を抱え、巨額の売上を稼いでいることだ。
逆に、BtoBマーケティングの世界では、売上に占める広告宣伝費の割合が低い業界が多く、それゆえ、前述の通りBtoBマーケティング支援をしている会社で売上数十億円以上になっている企業は存在していなかった。
しかし、あるときネットサーフィンをしていて、BtoB SaaSの市場規模が2025年には10,000億円以上になりそうだ、というBOXILのレポートが目に止まった。
さらにBtoB SaaSについて調べていくと、海外含め成長しているSaaS企業は売上の40%以上をSales & Marketing(セールス / マーケの人件費や広告宣伝費)に使っているというデータがあり、10,000億円のうちの40%にあたるMAX4,000億円がBtoBのセールス/マーケ領域に流通するのでは、という仮説を持った。
言い方を変えると、BtoCのEC、化粧品、ゲームなどと同じように売上に占める広告宣伝費の割合が高い業種がBtoBにも生まれたかもしれないのだ。
当社はBtoBマーケティングの領域で事業を大きくする予定はないが、この市場に参入しておけば死にはせず、一定のキャッシュフローを作れるのでは? そんな思考プロセスで「BtoBマーケティングのコンサルティング」というカテゴリーから市場に参入することを決意した。
市場参入後に意識したこと
コンサルティング市場への参入後は「受託ビジネスなので適正価格で受注できている案件があり、それに必要な分だけ人を採用すれば、会社はつぶれないだろう」と考え、まずは案件獲得に注力した。具体的には『#15 才流が目指す経営の弾み車』で解説した通り、コンテンツ作成能力が高い人たちを採用して、オウンドメディアを中心にコンテンツマーケティングを実施。徐々に増える案件数に従って採用を進めていった。
それと同時並行で意識していたのが、再現性高く成果が出るコンサルティングサービスにすること。今風の言葉にすると「カスタマーサクセスするサービス」に仕上げることに注力してきた。
カスタマーサクセス力を高めるために実施したことは『#14 パッケージ型のコンサルティングをやっている理由』で詳しく解説したが、プロジェクトの進行プロセスや納品する資料の型化を進めた結果、いまではほぼ全てのプロジェクトでお客様事例にご協力いただけるようになっている。
そして、提供価値の向上に合わせて、徐々に単価も向上させ、広告宣伝(当社の場合はコンテンツ作成)、採用、新規事業開発に投資できる状態が整ったのがこの3年半だった。
これからの3年間の注力テーマ
これからの3年間は主に3つのことに取り組んでいく。
まず1つ目は、基幹事業であるBtoBマーケティング支援のさらなるサービス品質の向上だ。会社にとってのフラグシップ事業だと捉えているので、顧客のより深い課題を解決し、より大きな価値を提供できるようにしていく。
2つ目は、周辺ニーズを発見し、新しいコンサルティングメニューを作っていくこと。BtoBマーケティングを切り口に顧客と接する中で、周辺にある課題感・ニーズを教えていただき、新しいコンサルティングメニューの種が見つかっている。
例えば、営業組織の平準化、代理店戦略の強化、マス広告の出稿、新規事業のマーケティング組織作りなどで、すでに水面下でコンサルティングメニューの開発・サービス提供をはじめている。他にも、適切な人材が採用でき次第、営業・マーケティング以外の領域にも当然、参入していく予定だ。
中長期の全社戦略としては『マイクロ事業法人【簡易解説版】~1つの事業に集中せず、多数の事業を作る~』に書いた通り、売上2~3億円程度のコンサルティングメニューを年5個ずつ、20年で最低でも100個作るペースで増やしていきたいと思っている。
最後の3つ目が、「BtoBマーケティングの会社」から「コンサルティング会社」に市場からのパーセプション(認知・認識)を変化させることだ。
社内や面接の場では伝えしているが、前述の通り、私が作りたいのは「メソッドカンパニー」であり「BtoBマーケティング支援の会社」ではない。
3年前は、ヒト・モノ・カネのすべてがなかったので「BtoBマーケティングのコンサルティング」というカテゴリーから市場に参入したが、本来は『メソッドカンパニー』として「再現性のあるコンサルティングパッケージを多数保有している会社」(的なもの)を作っていきたい。
とはいえ、普通に「コンサルティング会社」のカテゴリーに参入しても、競合が多すぎるため、何らかの新しいサブカテゴリー(例えば、IDEOやGoodpatchなどの「デザインコンサルティングファーム」のようなイメージ)を定義する必要がある。新しいサブカテゴリーの定義と市場からのパーセプション(認知・認識)の変更が2022年以降の主要なテーマになる。
逆に、コンサルティング会社の中での新しいサブカテゴリーが定義できれば、再現性のあるコンサルティングメニューを次々と増やし、様々な領域でメソッドを開発・発信できる。結果として、仕事をする上で何らかのノウハウが不足しているときは「才流のサイトに行こう」を実現できると捉えている。来年はマーケティング部門を立ち上げ、市場からのパーセプション(認知・認識)の変更やさらなるメソッドの開発・発信を強化していく予定だ。
終わりに
才流の成長戦略における注力テーマの推移を解説したが、今後、採用を強化していくにあたり、毎回の面接で同じ話をしなくて良いように言語化してみた。
やっていることは当たり前のことで特に競合に知られて困ることでもないが、困ることになったらどうしよう・・・と思いながら筆を置くことにする。
才流を経営しながら考えたことや参考にした本の書評を毎週1本、更新していければと思っています。ぜひご登録ください。