#21 なぜ残業のない組織を目指すのか?
先日、当社の働き方に関する取材記事『才流が実践する「残業なし週4.5日勤務」でも事業成長させる組織のつくり方』が公開された。
記事にある通り、当社は「残業なし」「水曜日の14時以降は休み」という働き方で、いわゆる“ホワイトな労働環境”を整えている。
ホワイトな労働環境にしているのは、顧客や社会への提供価値を最大化するために生産性高く働いた方が良いと思っているからだが、それ以外にも理由がある。
本ニュースレターでは生産性以外の観点から、ホワイトな労働環境を整えている理由を4つほど紹介したい。
①競争戦略上の特性
当社は企業向けにコンサルティングサービスを提供しているが、競合他社と比べられたときの優位性の一つに「実務経験があるコンサルタントによる実行性の高い提案」がある。
競合であるデジタルマーケティング系の支援会社は20代半ばの若手コンサルタントが多く、大手コンサルティングファームはマーケティングの実務経験がないコンサルタントたちがマーケティング戦略を描いていることも多い。
実際、某社の役員から「戦略コンサルの作った計画なので実践に移すにはさらにブレークダウンした物が必要となって来ているのが現状です。」というメールをいただいたことがあるが、実務経験がないコンサルタントが考えた戦略は実行フェーズでつまづきやすい。
逆に、当社ではマーケティング業界歴10年以上のメンバーを中心に採用しているため、“絵に描いた餅”にならない実行性の高い提案をお客様から評価いただいている。
しかし、競争優位の源泉になっている「マーケティング業界歴10年以上の人材」は市場にほとんどいない。希少性が高く、なかなか採用できないのだ。
仮に当社がブラックな環境では、せっかく採用した希少性が高い優秀な人材が離職してしまい、競争優位の確保だけでなく、サービス提供すらままならないだろう。
そのため、一度採用したメンバーに長く安心して働いてもらうことが重要だと考え、ホワイトな労働環境を用意するようにしている。
②正味の実力がわからなくなる
2つ目の理由が、恒常的な残業が必要な状態でビジネスを運営していては自分たちの本当の実力がわからないことだ。
昨今は残業禁止の会社も増え、残業代を支払うことも当たり前だが、少し前まで残業することが当たり前で、残業代を払わない企業が存在したことは事実だろう。
しかし、恒常的な残業が発生し、残業代を支払っていないような状態では、自社の本当の実力値(平日9-17時で活動した場合の売上、利益、成長率など)がわからない。例えば、特定の誰かに恒常的な残業が必要なのであれば、本来は採用やアウトソースをすべきで、そのコストを加味した上で自社の業績を計算すべきだろう。
稀に「広告宣伝費をかけなければ黒字」、「新規事業に投資しなければ黒字」という言い方があるが、
・広告宣伝費をかけていて赤字であれば、その企業は赤字
・新規事業に投資していて赤字であれば、その企業は赤字
であり、「◯◯をしなければ黒字」で計算していては、自社の実力や課題を正確に捉えられなくなる。
同様に「残業代を支払っていない状態で、売上◯◯億円、利益◯億円」や「従業員に超過労働を課した上で、売上△△億円、利益△億円」で計算していては、自社の実力や課題を正確に捉えられず、次の打ち手を見誤ってしまう。
自分たちの正味の実力を把握し、より精度の高い戦略・施策を立案するために残業がない組織を目指している。
③何かを犠牲にする価値があるのか
若かりし頃、仕事がきっかけで上司や同僚、部下とぶつかり、人間関係を壊してしまうことがあった。
しかし、あるとき「仕事とは誰かとの人間関係を壊してまでやる価値があることなのか?」という疑問が頭をよぎったことがある。
先日、親友と会社を共同創業した知人が「仕事の面で共同創業者と頻繁にぶつかっていたが、会社を成長させることは彼とのこれまで・これからの信頼関係を傷つけてまでやる価値があることなのだろうか・・?と我に返った」と言っていたが、まさに同じような感覚だ。
会社を成長させ、長期に渡って利益を出せないと顧客、従業員、パートナー、株主、社会に価値を届けられないため、会社は成長させた方が良いだろう。しかしながら、ステークホルダー全員の幸せのためにやっているビジネスで、「成長」という手段のために途中で誰かの「幸せ」が犠牲にならないようにしたいと思っている。
④悪行を相殺するほどの善行を積めるのか
最後に完全な観念論だが、ブラックな労働を強いることで生まれるマイナスを打ち消せるほど、自分たちは社会にプラスの貢献ができているのか、という問いが頭にある。
ブラック労働は本人や家族を中心に肉体的・精神的なマイナスを生むが、社員が100人いれば、100人分。1,000人いれば、1,000人分のマイナスを社会に生み出すことになる。
仮に私がユニクロの柳井さんやGoogleのサンダー・ピチャイCEOだったとしよう。その場合、世の中に生み出しているプラスの価値が計り知れないため、ブラック労働から生み出されたマイナスの総和を相殺できるのかもしれない。しかし、現時点の才流含め、ほとんどの企業は社会にそこまで大きなプラスの影響を与えられない。
善行を十分に積んでいない状態で、ブラック労働を強いる悪行を積み上げていては「地獄に落ちるわよ」という声がどこからともなく聞こえてきそうだ。
私は無宗教に属しているので、本当に地獄に落ちるのか、ビジネスを通した善行で悪行が相殺されるのか、という話がしたいわけではないが、バランスしていないもの、歪みがあるものは長続きしないと思っている。
自社を長続きさせ、ユニクロの柳井さんやGoogleのサンダー・ピチャイCEO並の善行を積めるよう、可能な限りホワイトな環境でメソッド開発・発信に励んでいきたい所存だ。
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