#23 自分がadd valueすべきことはなにか
今日は世界中で話題になっている投資ファンド「Tiger Global」と彼らの戦略からの学びを紹介したい。
伝統的VCを駆逐しつつあるTiger Global
Tiger Globalはユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)への投資案件数で世界最多を誇るベンチャーキャピタルだ。ベンチャー投資が活況を呈し、日本でもベンチャーキャピタルが次々と立ち上がっているが、Tiger Globalはその独特で大胆な戦略で注目を集めている。
※詳細な解説は『Tiger Globalは他のVCとは異なるゲームをプレイしている』や『タイガー・グローバル、超攻撃的VCの台頭』などを参照いただきたい。
彼らの戦略は、伝統的なベンチャーキャピタルが
2~4週間のデューデリジェンスプロセス
リターンを出すためになるべく低いバリュエーションで投資することを目指す
取締役会メンバーを1人または複数人派遣してコントロール権を持つ
様々な付加価値(ファンドのネットワークへのアクセス、採用・PR・オペレーションなどのハンズオン支援など)を提案する
を基本としているのは真逆で
・優れたハイテクビジネスを(きわめて)積極的に先取りする
・デューデリジェンスとタームシートの発行を(きわめて)迅速に行う
・過去の基準や競合他社に比べて(きわめて)高い価格を支払う
・投資後の会社への関与は(ほとんど)しない
・何よりも、資本を投下し、資本を投下し、資本を投下する
※出典:Tiger Globalは他のVCとは異なるゲームをプレイしている
というものだ。
Tiger Globalの戦略が長期的にうまくいくかどうかは時の審判が必要だが、「投資後の会社への関与は(ほとんど)しない」というスタンスが、個人的には大きな学びになった。
この戦略の背景には、レイターステージおいて「VCがハンズオン支援や取締役会に入っても、add valueできることはない」という彼らの信念がある。
投資検討時のビジネスデューデリジェンスは、コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーに外注し、自社では“レイターステージの未上場テクノロジー企業への投資”という「市場選定」と「投資実行」にのみフォーカスしている。
結果として、ある種、余計な機能が社内にないため、1日1件とも言われる超ハイペースで投資していても、Tiger Globalには未上場株ファンドと上場株ファンドを合わせて20人のキャピタリストしかいない。(※著名ベンチャーキャピタル・Andreessen Horowitzの投資チームの3分の1程度の人数)
最近、自分がadd valueできなかった話
Tiger Globalの戦略を調べる中で
自分が深い専門性がないことに首を突っ込んでもadd valueできることはない、という認識を持つこと
自分が本来発揮すべきvalueを見極めること
自分が本来発揮すべきvalueを生み出す活動に集中すること
の大切さを再確認したが、「自分がadd valueできないことに首を突っ込んでしまう病」は人類の遺伝子に埋め込まれているのでは?と思うほど、やってしまいがちな間違いだ。
営業への専門性がないのに営業トークに口を出してしまったり、マーケティングの知見がないのに自社の広告クリエイティブに口を出してしまったり、などは典型例だろう。実際、「経営会議でCTOからマーケティングキャンペーンについてダメ出しされ、マーケ部門の動きが鈍くなっている」といった類の話はよく聞く。(当然、適切な検討やディスカッションはなされるべきだが)
過去に偉そうに上記のようなツイートをしていた自分も、最近、「自分がadd valueできないことに首を突っ込んでしまう病」にかかってしまった。
当社では現在、多数のコンサルティングメニューを開発しているが、数ヶ月間それぞれのコンサルティングメニューを開発するメンバーと、個別に定例会議を実施していたときの話だ。
最初は、才流(サイル)を立ち上げた経験をもとにadd valueできることがあるのでは、という考えで首を突っ込んでいたが、しばらく各メンバーと議論を進める中で
新規サービス(=新しいコンサルティングメニュー)の企画・立ち上げに関して、自分は深い専門性がないこと
深い専門性がないゆえに、ほとんどadd valueできていないこと
複数の新規サービスの定例会議に入り、日々コミュニケーションを取ることは脳のリソースを大量に消費し、他業務にも影響が出てしまうこと
に気づいた。add valueできていないばかりか、他業務の生産性も下がってしまい、誰得な状態になっていたのだ。
「代表取締役だし、新規サービスの企画・立ち上げに関与した方が良いのでは?」という浅い思考で行動していたが、よくよく考えてみると、
新規サービスの企画・立ち上げのサポートに関して、もっと適切な人材が社内にいること
新規サービスの立ち上げメソッドとそれが磨かれていく仕組みを作った方が良いこと
今まで通り自律的で仕事ができる人たちを採用すれば、基本は大丈夫なこと
などがわかり、現在ではより適切なメンバーに新規サービス開発部門の責任者になってもらい、私は個別の新規サービスの検討には関わらないようにしている。
私が本来、add valueすべきこと
当然ながら、本来私が発揮すべきvalueは「会社が成功するように経営すること」だろう。
会社の成功とは「ミッション、ビジョンの実現を通じて、顧客・社会に価値を提供し、従業員・パートナーに十分な対価を払った上で、株主価値を長期で最大化させること」と言い換えられる。
そして、「会社が成功するように経営する」ためには、会社のフェーズや状況によって変わるものの
市場、事業領域を選定すること
事業と組織の大きな方向性を示すこと
事業を成功させて、気前よく、従業員、国(税金)、株主に報いること
などが私が注力すべき活動だ。
Tiger Globalが“レイターステージの未上場テクノロジー企業への投資”という「市場選定」と「投資実行」にのみフォーカスしているように、私も本来発揮すべきvalueを生み出す活動にもっと集中しなければいけない。
そんな学びがあってから、自社が市場で競争優位を持つための戦略・計画の立案に自分自身の時間の大半を使うようになった。
※「才流の成長戦略における注力テーマの推移」で解説した通り、今後、当社の主戦場は「コンサルティング市場」と定義している
自分の中では深く考えて下したこの判断が、吉と出るか凶と出るかわからないが、吉と出て欲しいなと思って毎日を過ごしている。
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