やりたいこと復古の大号令

「A Voundary by Hikaru」で“主観 is King, 合理 is Queen”という言葉に出会い、Substackで「主観→合理の順序が大切」を書いて以降、自分の主観やWhy、やりたいことを考える機会が増えている。
書くことで思考が整理される人間なので、今回は改めてビジネスを通じてやりたいことを言語化してみた。
「社会に貢献すること」をやりたい
人生の大半の時間を使うことになる仕事なので、せっかくなら社会の役に立つことをしたい。
社会の役に立っているのかわかりづらい仕事でお金を稼いだり、キャリアアップに励むよりも、わかりやすく社会の役に立っていると実感できる仕事がしたい。
最近、何かと話題のPalantirのCEOアレックス・カープが「テクノロジカル・リパブリック」で書いていた内容と近い視点を持っている。
シリコンバレーは内向きになり、国民の安全や福祉に関わるような大規模なプロジェクトに背を向け、ごく限られた分野の消費者製品の開発にエネルギーを注ぎ込んだ。
(中略)
あってもなくてもいいものや刹那的なものに資本や優秀な人材を集中投下する姿勢に疑問を抱きもしなかったのだ。
(中略)
テック企業の多くは、社会をよりよくし、人類の文明を一歩ずつでも高みに押し上げる努力を放棄した。
創業2年で約1,500億円の資金調達をした家庭用バッテリーのスタートアップ・Base Powerは「孫たちに、自分の人生でやったことはB2B SaaSだけだった、なんて言えるかい?」という挑戦的なメッセージを掲げている。特定領域への過度な資本集中への反省が米国のテック業界にあるのだろうか。
この視点を持ったきっかけは大学生の就活時期まで遡る。
当時、隆盛を誇っていた某ソーシャルゲーム会社の説明会で、東京大学理学部物理学科(通称・理物)出身の先輩社員が「ソーシャルゲームの課金最適化を担当している」と語っていた。
私が東大に在籍していた頃、「理物」は学内でも特に優れた頭脳が集まる学科として知られていた。そんな才能を持った人物が、ソシャゲの課金最適化に頭脳を使っていることに大きな違和感を持った。天に与えられた才能と長年の努力で培った能力は、もっと社会に貢献することに使うべきではないか。自分はそういった才能と能力の使い方をしたい、と思うに至った。
社会に貢献する方法
では、どのような方法で社会に貢献するのがよいのか。
電気・水道・ガス・道路などのわかりやすく社会に貢献できそうなインフラ領域は1900年代に整えられている。現代においては、地球温暖化、少子高齢化、物価高などの課題があるが、時代ごとの課題を解くよりも、どの時代にも永続的に価値があることをやる方が自分の性に合っていると感じる。
考え抜いた末に辿り着いた答えが、「人々の考え方に影響を及ぼす」ことだった。
特定の商品やサービスによって行動が変わることはもちろんある。しかし、自分自身を振り返ると、最も深く影響を受けてきたのは「考え方」との出会いだった。
世界中の経営者がピーター・ドラッカーや『ビジョナリー・カンパニー』シリーズのジム・コリンズの研究に影響を受けているように、N.N.タレブの『ブラック・スワン』『反脆弱性』が個人の思想を書き換えるように、「考え方」が変わることで人の思考と行動は変わる。自分が属する業界でも、『おもてなし幻想』や『チャレンジャー・セールス・モデル』といった著書、「購買プロセスの57%は営業担当者に会う前に終わっている」ことを示して、世界中に影響を与えた研究機関・CEB(Corporate Executive Board)のような存在もある。
仕事を通じて人々の考え方に影響を及ぼし、社会に貢献する。それが自分の主観やWhy、やりたいことである。
これまでにできたこと、これからやること
まだまだ力不足ではあるが、これまでにできたこともいくつかある。
マーケティング業界で起きている課題を提起した「ドーナツ化現象」。
マーケティングの施策設計に使える「階段設計」。
顧客への理解を深める重要性をイラストとともに示した「顧客解像度」。
これらなどは業界によい影響を及ぼせたのではと思う。
また『新規事業を成功させる PMFの教科書』の出版を通じて、日本におけるPMF(Product Market Fit)という概念の普及にも一役ぐらいは買えたのではないか。
書籍のために始めた連載「僕たちのPMFの話をしようか」を読んで、「PMFできました!」と声をかけてくれた起業家が何人もいた。
また、昨年12月に出版した『パートナービジネス戦略 基本と実践』で紹介した調査結果である「パートナーが売ってくれるのは、メーカーとコミュニケーションが取りやすいとき」は個人的にもアハ体験があった。
同じく今年3月に発売した『ABM 基本と実践』では、欧米発の概念の輸入に留まらず、日本市場の実態に合わせたABMの考え方を整理できたのは、社会によい影響を及ぼせたのではと思う。
当社の知見を信頼してプロジェクトをお任せいただいたお客様からも、嬉しい声をいただいてきた。
「当時作成したマーケティング戦略の資料を今もスマホに保存し、紙にも印刷して迷ったときに立ち返って読んでいる」と言ってくださったお客様
デジタルマーケティング経由の案件獲得に伴走して、M&AによるEXITに多少なりとも貢献できたお客様
対象セグメントの大幅な変更を一緒に決断し、当該セグメントでの独占的なシェアを獲得、創業来の夢である海外進出への起爆剤となったお客様
パートナーチャネルの立ち上げを進言し、売上が2倍となり、M&AによるEXITにつながったお客様
当社の知見によって、お客様の判断・意思決定や考え方が変わることで、「風が吹けば桶屋が儲かる」式に、その人や周囲、ひいては社会によい影響が連鎖していく。そのことを実感できるたびに、この仕事を続ける意味を実感する。
改めて、ビジネスパーソンの考え方に影響を与えるという観点で、調査・研究、発信、クライアントワークを続けていきたいと思った次第である。
※タイトルは『ストーリーとしての競争戦略』で有名な経営学者の楠木建教授が本で書いていた「定性復古の大号令」のオマージュです。定量的なデータを統計分析して仮説を実証していくような研究よりも、事例の断片から自分の論理を組み上げていく定性的な研究を自分の土俵にしようと30代半ばに決め、「定性復古の大号令」と名付けたらしい







