#51 組織マネジメントは「仕事を簡単にする」と上手くいく
今回は様々な経営者やマネージャーと話したり観察する中で気づいた、組織マネジメントに苦労する人と苦労しない人の差について解説してみたい。
「難しい仕事」では組織マネジメントに苦労する
これまで数百名以上の経営者・マネージャーと接する機会があったが、組織マネジメントに悩んでいる人もいれば、ほとんど悩んでない人もいた。
最初は彼ら・彼女らのリーダーシップや人間性によって差が出ていると思っていたが、強いリーダーシップを持ち、優れた人間性を持つ人でも組織マネジメントに悩んでいることがあった。
逆に、強いリーダーシップを発揮しているようには見えず、必ずしも完璧な人間性とは言い切れない人が、組織マネジメントに悩まず、組織をスケールさせていることもあった。
組織マネジメントに苦労する/しないの差はどこから生まれるのだろうか、と考えていたある時、組織マネジメントに悩んでいる人の話を聞いていると「メンバーへの要求水準が高く、仕事が難しそうだと感じる」ことに気づいた。
自分が部下だったら、その上司のもとで成果を出すのに苦労するだろうなと。
例えば、営業パーソンに対して
新規アポ獲得
きれいな身だしなみ
上手なヒアリング
提案内容の企画
提案書作成
提案後のマメなフォロー
受注後の契約締結作業のヌケモレのなさ
会食での宴会芸
などを求めていたりする。一見当たり前の項目が並んでいると思うかもしれないが、これら全てを高い水準で遂行できる営業パーソンはそれほど多くないだろう。
私も上記を求められたら新規アポ獲得の方法で思考が停止し、宴会芸で心が折れてしまう。
逆に、組織マネジメントに苦労していなそうな人たちと話していると「メンバーへの要求水準が低く、仕事が簡単そうだと感じる」ことが多かった。
自分が部下だったら、その上司のもとで成果を出せるだろうなと。
例えば、営業パーソンに対して
数多くの商談をこなすこと
に集中してもらっている。そして、それ以外の要素を軽視しているわけではなく
新規アポ獲得はWeb広告経由で獲得
「きれいな身だしなみ」の具体的な基準を社内で周知
ヒアリング項目を型化
提案内容のパターン化
提案資料のテンプレート作成
提案後のフォローの回数や内容をルール化し、CRMで自動化
受注後の契約締結作業はバックオフィス部門が実施
営業活動としての会食禁止をルール化
などをした上で「数多くの商談をこなすこと」を営業パーソンに求めている。
前者の環境で成果を出せる人は少ないが、後者の環境で成果を出せる人はたくさんいるだろう。
東証プライム市場に上場する北の達人コーポレーションの木下社長の著書『売上最小化、利益最大化の法則』にも以下のような記述があり、社員への要求能力が高いままだと組織がスケールしない、と指摘されている。
こうして考えてみると、組織をつくる手順がわかる。まず、社員に対する要求能力を下げる仕組みをつくることだ。要求能力が高いままだと、社員がパンクして定着しない。要求能力を下げるには、マニュアル化とともに、一業務一人状態を目指してなんとか会社を大きくするしかない。ここが一番の踏ん張りどころだ。
もし組織をスケールさせたかったり、メンバーのパフォーマンスを上げたいのであれば、「優れた人材を採用しよう」「人材育成に投資しよう」と考えるだけでなく「メンバーへの要求水準を下げ、仕事を簡単にしよう」と考えることが重要なのだろう。
では「メンバーへの要求水準を下げ、仕事を簡単にする」にはどうすれば良いのだろうか? 5つほど具体例を紹介する。
「仕事を簡単する」の5つの例
①名指しで仕事の依頼をもらう
「この仕事は◯◯社に依頼したい」と名指しの相談から案件を獲得するのと、3社コンペや5社コンペを勝ち抜いて案件を獲得するのでは、前者の方が簡単で多くの人が成果を出せる。
会社やプロダクトの認知度を高めたり、ブランディングを強化したり、良い製品・サービスを提供して口コミが生まれるようにすると仕事は簡単になる。
②インバウンドで問い合わせをもらう
見込み客からWebサイト経由でお問い合わせをもらって商談するのと、まっさらな企業リストからテレアポして商談するのでは、前者の方が商談獲得も受注獲得も簡単だ。
情報発信に力を入れたり、Webサイトを改善したり、広告宣伝を上手にやることで仕事は簡単になる。
③業務の型やマニュアルを作る
日々の業務に型やマニュアルがあるのと、型やマニュアルがなく都度、一から考えなければいけないのとでは、当然、前者の方が業務を進めやすい。
成果が出る業務の型を定義し、マニュアルを整備することで仕事は簡単になる。
④ルールやガイドラインを充実させる
日々業務を進めていると型やマニュアルに定義されていない意思決定や判断が必要になることも多い。
このとき、ルールやガイドラインがないと多くの人たちは「どうすれば良いのだろうか・・」で思考が止まってしまう。
業務上の意思決定や判断の軸になるルールやガイドラインを充実させた方が仕事は簡単になる。
⑤シングルタスクに近づける
例えば、マーケターとして働く際、Webサイトを改善して、広告を運用して、顧客や市場理解のための調査をして、ウェビナーを開催して、オウンドメディアのコンテンツも執筆することが求められる環境よりも、顧客や市場理解のための調査とWebサイトの改善だけを求められる環境の方が多くの人が成果を出しやすい。
組織の人数を増やして分業する、ツールを導入する、優先順位ややらないことを決める、などによって、マルチタスクな状況を減らし、シングルタスクに近づけることで仕事は簡単になる。
※創業初期や事業の立ち上げフェーズでは組織の人数が少なく、1人が複数業務を兼務しなければいけない局面もある。その場合、最初からマルチタスクに耐えられる人材をアサインすべきで、高い給与を払う/株やSOを渡す/業務委託で見つけるなどの工夫が必要だ。
「仕事を簡単にする」のは働き手にとっても良いことなのか
5つほど「仕事を簡単にする」方法を紹介したが、こういう考え方を説明すると『仕事が簡単だとスキルがつかず、仕事もつまらないだろうから、働く人にとっては微妙では?』と質問されることが多い。
これに関しては某外資系企業に勤めていた知人から聞いた話を紹介したい。
その外資系企業では営業時のアプローチ先やヒアリングすべき内容、提案内容をAIが提案してくれる社内システムが存在したらしい。ともすると、営業パーソンはAIに従うだけであり、モチベーションが保てないのではないか、、と知人は心配したらしいが、実際は「お客さんと良いコミュニケーションが取れるし、成果が出て給与も上がるから嬉しい!」と皆が楽しそうに働いていたという。
私自身、これまで社内・社外の多くの人たちと働いてきたが、ほとんどの人たちは成果を出したい、顧客や社内に貢献したい、という思いを持っていた。
メンバーの成果が出ていない場合、足りないのは「やる気」ではなく、「成果を出すための方法論や環境」であることが多いと思っている。
つまり、「成果を出すための方法論や環境」があれば、働く人たちは元々持っている「やる気」をベースに楽しく仕事ができ、その中で自然とスキルを伸ばしていけるはずだ。
別の表現として、茶道や武道などの修業における過程を示した「守破離」という言葉がある。
守:師や流派の教え、型、技を忠実に守り、確実に身につける段階
破:他の師や流派の教えについても考え、良いものを取り入れ、心技を発展させる段階
離:一つの流派から離れ、独自の新しいものを生み出し確立させる段階
※出典:コトバンク 守破離とは
と定義されるが、「守」がない環境では多くの人たちが「破」や「離」にたどり着く前に溺れてしまう。
逆に「守」が存在する環境では、「破」や「離」にたどり着く人たちが増え、より多くの人たちが高度なスキルを身につけることができる。
組織マネジメントに関してはいろいろな考え方があるだろうが、私個人としては「仕事を簡単にする」というポリシーを持って、「成果を出すための方法論や環境」作りに励んでいきたい。
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