#52 新規事業は「新規性の不利益」を頭に入れて立ち上げる
今回は最近読んだ『スタートアップの経済学』の中で知った概念「新規性の不利益(liability of newness)」を紹介したい。
過去の経験から“起業や新規事業の立ち上げ当初は苦労することが多いなー”という感覚に持っていたが、「新規性の不利益」という概念を知ったことで、具体的に何に苦労するのか、なぜ苦労するのかを理解することができた。
新規性の不利益とは
新規性の不利益とは、企業の「新しさ」に起因する様々な不利益のこと。
起業や新規事業の立ち上げ時には、以下のような不利益が企業を襲う。
【ヒトの観点】
・経験が乏しいため、経営や技術などの多くの面でスキルや能力が足りない
・「ルーティン」と呼ばれる繰り返し行われる運営上の手順がない
・トラックレコード(実績や履歴)がないため、採用に苦戦
【モノの観点】
・商品開発に必要な、有形/無形の資産(設備、知的財産など)がない
・取引先の開拓が必要
・トラックレコード(実績や履歴)がないため、取引先の開拓に苦戦
・商品を継続的に購入してくれる、安定した顧客リストがない
【カネの観点】
・トラックレコード(実績や履歴)がないため、資金の調達に苦戦
【情報の観点】
・外部情報へアクセスするネットワークがない
要は、起業や新規事業の立ち上げフェーズでは様々な要素が足りないため、様々な苦労に直面するらしい。
※『スタートアップの経済学』の中で引用されている日本政策金融公庫総合研究所の調査では、特に「顧客・販路の開拓」「資金繰り、資金調達」に苦労した企業が多いとされる。
以前、以下のようなツイートをしたが、事業立ち上げの1年目、2年目に“思っていたほど売れない”となる理由は「新規性の不利益」が原因の1つだったのかーと思って納得した。
「新規性の不利益」からの学び
この概念から経営に活かせそうな3つの学びを残しておきたい。
①既存顧客に新商品を売るのが良い
「新規性の不利益」の中でも、取引先や販路の開拓は多くの企業が苦戦し、致命傷になり得るものだ。
解決策としては、新規の取引先や販路開拓が必要ない「既存顧客に新商品を売る」タイプの新規事業を立ち上げることが考えられる。
実際、大手企業の中には自社が持つ広大な営業網を活かし、既存顧客に次々と新商品を売ることで成長を続けている企業が多数存在する。
アンゾフのマトリクスでは右上の「新商品開発」にあたるが、既存顧客にクロスセルできる新商品の開発・販売は成功確率が高いだろう。
②最初の2、3年はディフェンシブに計画する
事業計画を立案する際、下図のように事業立ち上げからギュイーンと伸びていく図を描いてしまいがちだ。
しかし、いざやってみると「新規性の不利益」によって立ち上げ後の数年間、事業の成長は抑制される。事業計画上は、最初の数年間の成長率をディフェンシブに見ておいた方が良いだろう。
今や日本最大の通信制高校であり、1万5千人以上の生徒を抱えるN高の立ち上げについて、角川ドワンゴ学園の理事を務める川上量生氏は以下のように語っている。
例えば、弊社の経営企画の人間が当初に作ったモデルは、最初に150%の成長をし、それから次第に成長が鈍化するものでした。でも、学校はそうじゃなかったんですよ
(中略)
それは『実績』で増えていくものだったんです。1年目・2年目のマーケットはまったく刈り取れていなくて、誰もが『様子を見ていた』。なので、卒業生を出した3年目以降のほうが成長率が高くなりました
出典:【独占】N高が教育ビジネスで“勝つ”理由 ── 川上量生氏が“ついでに”目指す「脱受験教育」
③「新規性の不利益」を超えるまで心を強く持つ
新規事業を立ち上げたものの、思うように事業が伸びず、「この事業はイマイチかな・・?」と思って、新規事業への投資を止めてしまうことがある。
しかし、事業立ち上げ後の数年間の伸びは「新規性の不利益」によって、本来その事業が持つポテンシャルよりも割り引かれている。
経営者、事業責任者としては撤退や投資縮小を焦ることなく、時間の経過と共に増えるであろう
・実績
・経営や技術などのスキルや能力
・人とそれに紐づくノウハウ
・販路
・商品を継続的に購入してくれる、安定した顧客リスト
・「ルーティン」と呼ばれる繰り返し行われる運営上の手順
などの確立とそこからもたらされる成長を待つことを忘れないようにしたい。
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