組織の最適化は1度きりではない。リーダーの作法
今回はNetscape、Apple、Pinterest、Slackなどの急成長スタートアップを渡り歩いてきた著者がマネジメントのエッセンスをまとめた『リーダーの作法 ―ささいなことをていねいに』を紹介したい。
当社は年始には従業員数10名強だったが、来年1月には30名強になり、組織規模を拡大している真っ最中だ。組織マネジメントに関するインプットを増やそうと何冊か読んだが、本書は変に抽象化、理論化されていない分、高い実用性を感じた。
1.印象に残ったこと
第16章「どんなものだって破綻する」に“3と10の法則”が紹介されている。
1人が3人になると、また違ってきます(中略)10人になるとまたガラッと変わります。そして、30人になったら、また変わります。100人に増えても同じようにまた変わります。
そうやって、人が増えていく過程で、すべてが破綻していきます。あらゆることがです。コミュニケーションの仕組みや、給与計算、会計、カスタマーサポートなど。だから、3人から10人になる時に、導入したものをすべて変える必要があります。
制度や仕組みがずっと変わらない組織は存在せず、規模の拡大に合わせてすべてを設計し直す覚悟が必要、という指摘だ。
これに近い指摘がプロダクト開発や新規事業の世界でもあり、「PMFは一度きりのイベントではなく、何度も達成するもの」だと言われる。
※PMFとは、Product Market Fitの略称で、顧客を満足させる商品を正しい市場に提供していることを意味する
新規事業やスタートアップはPMFの達成を目指して突き進んでいくが、PMFを1度達成しただけでは実は不十分で、大きな成功には別の顧客セグメントに対して2度目、3度目のPMFを達成することが欠かせない。
そして、2度目、3度目のPMFを目指す際は、一度作ったプロダクトの機能・訴求メッセージ・顧客獲得チャネル・組織構造を新しい顧客セグメントに対して最適化させる必要がある。1度目のPMFでは有効だった機能や訴求メッセージなどが、2度目、3度目のPMFでは使えないケースも多い。
この「PMFは一度きりのイベントではない」話はPMFだけでなく、組織についても同様で、1人→10人→30人→100人→300人→1,000人と組織のフェーズが変わるたびに制度や仕組みを何度も最適化させる必要があるのだろう。
一般的には“10人の壁、30人の壁、100人の壁”と呼ばれたり、“グレイナーの5段階企業成長モデル”で解説されるが、「次のフェーズに行きたいなら、すべてを設計し直す覚悟が必要」という指摘は共通している。
本書を読みながら、これまでうまく行っていた組織の制度や仕組みをそのまま続けようとしたり、一部だけ変えて済まそうとするよりも、フェーズごとに最適なものを考えるべきだなと気づくことができた。
2. 抜粋とコメント
マネジメントとは、まずチームが直面している障害やメンバー間の軋轢といった情報を明らかにすることであり、さらにそうして得た情報を分析して、進むべき正しい道を見出すことである、ということでした。
うまくマネジメントするためには、情報を手に入れることと正しい道を見出すことをどちらもうまくやらなければなりません。情報をうまく手に入れるためには、適切な質問をする必要がありますが、それだけでなく、質問に本音で答えられる文化を作らなければなりません。
進むべき道を見つけるためには、多くの取りうる解決策について学び、その時々の状況に応じて最適な解決策を選ぶ必要があります。
→序文の文章がマネジメントの全体感についてまとまっていた。「情報を手に入れること」と「正しい道を見出すこと」のうち、前者が上手くできれば、後者は比較的簡単な印象。
それぞれのミーティングについて、「事前に何を準備すべきか」を考えて準備する。仕様書を読み直す?第2四半期の目標を見返す?前回ミーティングでのアクションアイテムは実行されているか、周知されているだけか?このように、事前に考えておくことが大切で、それをミーティング中にやらないことにしています。
→一部のミーティングで準備不足で参加してるので反省した。
だからこそ、大学でリーダーシップに関する実務的な学位を取ることができないのです。結果を出せるリーダーになるために必要な重要スキルのほとんどは、仕事中に繰り広げられる無限ともいえるシナリオを、何年もかけて意識して自分の経験にすることを通じて、手に入れていくものなのです。
→事前のインプットも大切だが、やりながらより多くを学べる。
その従業員と何ヶ月にもわたって何度も面と向かって会話をし、パフォーマンスが期待するものに届いていないことを明瞭に説明して合意し、そのギャップに対処するための計測可能で具体的な行動についても合意しましたか?(中略)そのためには問題について話し合う必要があります。何度も。様々な文脈で。何ヶ月もかけて。(中略)
このような難しい会話をすることで、あなたのコミュニケーション能力は向上し、様々な視点の価値を学び、共感を築きあげることができます。そうすることで、より良いコーチ、より良いリーダーになるのです。
→第16章「手厳しいことを言う」からの引用だが、私の観測範囲内ではこのプロセスに疲弊して、転職を考えたり、マネージャーを辞めてしまうケースも多い。
マネージャーの仕事は質の高い仕事をすることではなく、仕事の量が増えても質を維持できる健全なチームを作ることです。(中略)マネージャーの仕事はものづくりではなく、ものづくりができるチームを作ることだからです。
→当たり前だけど、大切な視点。つい自分でものを作ってしまいがち。
健全で生産性の高いエンジニアリングチームを作り、維持するためにできることの中で、チームのための人材を発掘し、声をかけ、自社について売り込み、雇用することほど重要な仕事はおそらくないでしょう。
→良いチームづくりには採用が一番大事、という話。しかし、採用にリソースを投下し切れずに、後工程の火消し的な活動にリソースを奪われてしまうケースが多い。
後工程にあたる入社後のオンボーディングやマニュアル作成、仕組みづくりが一段落したら、前工程の採用にこそ、リソースを集中投下するのが合理的。
情報がないとき、人は最悪の思いつきでギャップを埋める
→良い表現。
組織図、会社の価値観、現在のビジネスゴールといった重要な情報は、わかりやすい場所において、きちんとメンテナンスしなければなりません。
→メンテナンスできてないので、メンテナンスしたい。
マネージャーになることは昇進ではなく、キャリアの再出発であることを忘れないようにしてください。
→良い表現。プレーヤーだったことでドメイン知識は活かせるが、マネージャー業は全く別の競技だなと思う。
情報ネットワークの健全性は、チームの健全性を示す一つのレンズです。重要な情報が組織内を自由に行き来するようになれば、びっくりすることが減り、意思決定の質が向上し、信頼関係が構築されます。
→情報ネットワーク is 大事。
あなたが手にしているこの本(紙であれ電子書籍であれ)は、私がマネージャーになった最初の数年間に、しっかりとしたサポートを受けられなかったことへの不満から生まれたものです。
→キャリアの最初の数年間に、PMFしていない事業に配属されたことへの不満から生まれた『新規事業を成功させる PMFの教科書』が10月11日に発売になりました。ぜひご一読ください!
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才流を経営しながら考えたことや参考にした本の書評を毎週1本、更新していければと思っています。