#55 うまくいかないのが当たり前
先日、社内のメンバーから『うまくかない部分があっても、それもそういうものだと手放していそう』というフィードバックをもらった。
もちろん仕事の性質にもよるが、うまくいかないのが当たり前という姿勢は仕事をするうえで意識していて、その意識を持ってから仕事がうまく進むようになった気がする。
うまくいかないのが当たり前と考えるのは「ネガティブな思考」ではなく、「正しい状況認識」だと捉えているので、今回はこの考えに至ったきっかけを5つほど紹介したい。
1.カオス期の存在
1つ目のきっかけは、知人から上図の「カオス期」と「収束期」の話を聞いたことだ。
上図の通り、事業やプロジェクト、キャリアなど、物事のフェーズはざっくり「カオス期」と「収束期」に分かれる。
「カオス期」は物事の初期に必ず通るフェーズで、当事者にとっても“何がなんだかわからない”ような状態がしばらく続く。新規事業や新しいプロジェクトの立ち上げ、新卒や中途での入社、新しいスキルの獲得などがイメージしやすいだろう。
文字通りの“カオス”であり、意思決定や判断、行動の精度が低くなりやすい。このフェーズでは、精度よりも行動の量とスピード、そこからの学習に比重を置いて仕事を進めることが有効になる。
「カオス期」を進み続けた先には、リソースの投下が成果に直結する「収束期」のフェーズがあるが、自分が「収束期」ではなく「カオス期」にいるときは“うまくいかないのが当たり前”だと考えるようにしている。
2.パズルは前半が難しいが、後半は簡単
事業やプロジェクトの立ち上げ、キャリアチェンジを何度か経験するうちに「パズルみたいだな」と思ったことがある。
前半は全体像が見えなかったり、手持ちのピースがどこにハマるのかわからないため難易度が高いが、後半になればなるほど、見えている部分が多くなったり、手持ちのピースがハマる箇所が明らかになるため難易度が低くなるからだ。
仕事をパズルのメタファーで考えると「カオス期」「収束期」の話と同様に、事業やプロジェクト、キャリアの前半にいるときは難しいと感じたり、うまくいかなかったとしても、それはある種、“そういうもの”であり、精度の低さを気にし過ぎても仕方がない。むしろ、パズルのピースを埋めていくために努力できているか、を気にするようにしている。
3.人間の判断の精度は低い
2018年7月号のハーバードビジネスレビューで紹介された好きな論文がある。マイクロソフトがここ10年取り組んでいるA/Bテストに関する効果や方法論を紹介・考察したものだ。
マイクロソフトのポータルサイト・Bingでは、あるアイデアをA/Bテストを経て実装し、売上が11%(米国だけで年間1億ドル以上)も増えたとのことだが、A/Bテストの効果以上に以下の文章が心に残った。
大部分は実験でうまくいかず、どれが効果を生むかは専門家でも判断を間違いやすい。
グーグルやBingの場合、実験のうちよい結果が出るのは10~20%にすぎない。マイクロソフト全体では、三分の一が有効、三分の一が変化なし、三分の一が悪影響である
マイクロソフトに所属するような非常に賢い人たちがやっても施策の成功率は30%程度しかない。直感的には、思いついた施策の70%ぐらいは良い結果につながる気がするが、残念ながらそんなことはなく、30%前後しか良い結果につながらないようだ。
たしかに私たちが思いつくことの精度が70%ぐらいあったら、今ごろほとんどのビジネスパーソンは天文学的な大成功を収め、南の島でFIREしてるよな、とこの論文を読んだときに思った。
また、私の友人に1,000万ダウンロード以上されているスマホアプリの共同創業者がいる。昔、彼が「社内で議論を重ねた施策ほどスベっていたり、こっちの方が成果が出るのでは?という事前仮説もほとんど当たっていないことに気づき、とにかくリリースしてしまい、A/Bテストの結果を見て、良い方を残していく方法に変えた」と言っていた。
マイクロソフトと友人の会社の話を知ってから、人間の判断の精度は直感的に思うよりも遥かに低いものであり、自分の判断も“うまくいかないのが当たり前”だと捉えるようになった。
その代わり、打ち手の数を増やし、結果的に良かったものを残していくスタンスを意識している。
4.トライする姿勢が大事
AngelListの創業者でUberやTwitterなどへのエンジェル投資家として有名なNaval Ravikantを取り上げた本に読書に関する章があり、なにを読むか、どういう順番で読むか、も大切だが、とにかく「大量に読む」という姿勢がそもそも大事という話があった。
何を読むかなんてほとんどどうでもいい。(興味のおもむくまま)読んでいるうちに、人生が劇的に好転する。
読書におけるインプットを考えた際、一番良くないのは、なにを読もうかな、どういう順番で読もうかな、どういう読み方が効率が良いかな、と考えることに時間を費やしてしまい、結局、たいして読まないことだ。
それなら漫画でも、小説でも、科学書でも、なんでも良いから大量に読む習慣を作り、そこから必死に学び取る方がより多くを学べるだろう。
これは仕事に置き換えると、何をやるか、どういう順番でやるか、どうやると効率が良いか、を考えることも大切だが、「大量にやる」という姿勢がそもそもとして必要だと言える。
「うまくいかない」や「効率が悪い」よりも、「やる気がない」や「行動量が足りない」を避けるべきだと思っている。
5.構造が成果を決める
昔、営業パーソンとして働いていたときに、PMF(Product Market Fit:顧客のニーズを満たす商品で、正しい市場にいること)していない商品を扱っていたことがある。
そのときは全く成果を上げることができず、あまりにも自分が赤字社員過ぎて、毎年年末になると本当に嫌な気持ちになっていた。
「今年も売れなかったけど、来年も売れないよな・・。それでも自分は年明けに出社する意味があるのだろうか・・・」と思いながら年末年始を過ごしていた。
自分の営業力を磨こうと思いつく限りの努力をしたが、いまから思えば、当時扱っていた商品がまったくPMFしていなかったのが売れない原因だった。私も売れていなかったが、先輩の営業パーソンも、事業責任者も、当時の担当役員も売れていなかったのだ。
このときの経験から物事がうまくいくためには、個人の努力の前に「うまくいく構造」が必要だと考えるようになった。
例えば、PMFしている商品を扱っている営業パーソンとPMFしていない商品を扱っている営業パーソンでは、商談獲得や受注獲得で成果を出しやすいのは前者だろう。
また、『この仕事は御社に依頼したい』と名指しの相談から案件を獲得するのと、3社コンペや5社コンペを勝ち抜いて案件を獲得するのでは、前者の方が営業パーソンは成果を出しやすい。
うまくいかないのを個人の資質や努力に求めるよりも、ほとんどのケースで「うまくいく構造」を作ることにエネルギーを割いた方が問題解決の近道になると信じている。
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