失敗するべくして失敗する。 <起業>という幻想 アメリカンドリームの現実
今回紹介する書籍は、アメリカの起業に関する研究を網羅的に調べ、どのような起業が成功し、どのような起業が失敗するかをまとめた『<起業>という幻想 アメリカンドリームの現実』。
創業時だけでなく、社内で新規事業を立ち上げるとき、既存事業を強化したいときにも使える話が紹介されている。身も蓋もない話が多いが、一通り頭に入れておくと良さそうである。
1.印象に残ったこと
様々な研究を概観すると、成功する起業には以下の傾向があるらしい。
より資本金が豊富で、株式会社として組織され、明確なビジネスプランを持つ起業家たちのチームがフルタイム・ベースで創業し、他人が見逃している顧客に製品を売ろうとしている比較的大きなビジネスは、そうでないビジネスよりも成功する
(中略)
マーケティングと資金のやり繰りを重視し、一つの市場に集中し、価格引き下げ競争に走らないといったことが業績を向上させる
(中略)
教育を受けていて、これからビジネスを始めようとする産業で働いた経験を持ち、利益を上げることを目標にビジネスを始めようとする人が創業したスタートアップ企業の方が、平均的にみて、より高い業績を上げる
なにやら当たり前の話が続いているように思うが、本書に“起業家の大多数は、新たなビジネスの経営方法を間違えている”と書かれているように、多くの起業家は
資本金をあまり持たず
明確なビジネスプランやマーケティングプランもなく
価格を競争優位性に置いて
自分が働いたこともない産業で
稼ぐことではなく、他人の下で働きたくないから、という動機で
創業する傾向があるらしい。結果として、ほとんどの起業が失敗に終わり、雇用や経済成長、起業家個人への富をもたらすことなく、アメリカンドリームなんてものは極稀にしか起きていない。
日々の仕事でも
予算がない状態で
明確な計画、方針もなく
「とりあえずやってみる」をモットーに
自分がやったこともない業務を
いまの業務に飽きてきたから、という動機で
やってしまうことって往々にしてあると思うが、起業も仕事もデフォルトで「失敗」に向かいやすい性質があるのかもしれない。
本書のメッセージをものすごく抽象化すると『目標達成に向かって、計画的に働こう』だと理解したので、デフォルトで埋め込まれている失敗に抗い、ビジネスの成功に向けて働いていきたい。
2. 抜粋とコメント
本書の中で紹介されていた、起業の成功に効く要因を22個書き出してみた。
スタートアップ企業の業績に関する研究で、もっとも基本的な発見は「時間とともに容易になる」という一言に集約される。ビジネスは長く続けば続くほど、それだけ将来も長く続く傾向が高まることが一連の研究から判明している
平均的なスタートアップ企業は、寿命が長ければ長いほど、利益率も上がっている
産業別の企業の四年間の生存率は、情報産業の三十八%から教育産業や健康産業の五十五%までと、十七%もの開きがある
より大規模のスタートアップ企業のほうが資本を得やすく、利益率が高く、売り上げも雇用の成長も大きく、失敗しにくい
スタートアップの資本金の大きさは、新たなビジネスの生存率を高める
外部資本の獲得機会―そして企業の生存率、利益率、成長も―は、フルタイムでベンチャー企業を始める場合の方が高い
九十%以上の起業家がゼロから新たなビジネスを始めるが、スタートアップは、他人のビジネスを買うほうがずっと失敗しにくい
ほとんどの起業家が自分一人の力でビジネスを始めるが、チームを組んでビジネスを立ち上げたほうがうまくいく
多くの起業家がビジネスプランを策定しようとはしない。しかし、ビジネスプランの策定は、製品の開発を促し、組織を改善し、外部資金獲得の機会を増やし、売り上げを伸ばし、失敗の確率を減らす。特に、起業家が顧客にマーケティングを行う前にプランを展開する場合は、なおさらである
多くの起業家は、ビジネスを組織する際、アイデアの特定から始め、ビジネスプランを策定し、アイデアを評価し、資源を獲得し、製品やサービスを開発し、最後にマーケティングを行うという適切な手順を踏んではいない。しかし、創業者がスタートアップ活動を始める手順は、新たなビジネスの業績に影響を与える
多くの起業家が、以前の勤め先と同一の、あるいは似たような顧客を相手にし、同一もしくは類似の製品を販売するが、研究によれば、新企業の業績は、ほかの会社が見逃しているような顧客を探し出すことで向上する
多くのスタートアップ企業が、個人のお客に対して製品やサービスを販売するが、アメリカでもっとも速く成功した企業の九十%は、企業を顧客にしている
マーケティングを早期に開始し、マーケティングプランを重視する新会社の業績は、そうでない会社よりいい
資金繰りは、新たなビジネスが生存し、成長する可能性を高める
多くの起業家が価格競争に走る。しかし、この戦略は、新ベンチャーの業績を阻害するものであり、サービスや品質など他の面で競争したほうがいい
創業当初は単一の製品や市場に集中し損なうものである。しかし、活動を集中させたビジネスは、そうでない場合よりも業績がいい
もし、起業家として成功したければ、高校を卒業し、大学に行ったほうが、成功の確率はずっと上がる。多くの研究によれば、よりよい教育を受けた起業家は、外部資本にアクセスしやすく、失敗の確率を下げることができ、売り上げや雇用を伸ばし、より利益率を高くすることができる。(中略)大学院修了者が創業した平均的なスタートアップ企業は、大学の学部卒業者によるものよりも四十%売り上げが多い
創業前に誰かの下で働く期間が長かった起業家は、失敗する確率が低く、利益を上げることができ、成長する可能性が高い。とりわけ、創業者が前職で専門職、経営や管理部門の経験を有している場合は、新ベンチャーの業績は特に高い
勤務経験だけでなく、新会社が属する産業での経験もまた、スタートアップ企業の成功の助けとなる。スタートアップが属する産業での経験を有する者が実際に創業した場合、そのスタートアップは、製品の開発を早め、資本へのアクセスの機会を広げ、生存率を高め、利益率を上げ、売り上げを伸ばし、雇用を増やすことができる
ビジネスを始めるかどうかは誰を知っているかではなく、何を知っているのかに依存している
創業者の起業の経験ほど、スタートアップ企業の業績向上に資するものはない。経験豊かな起業家によるビジネスは、素人が創業する場合よりも、さらに発展し、収入も多く、成長も速く、失敗する確率も低い
誰かの下で働きたくないので創業した人たちは、お金よりも自律性を求めがちなので、結果として、資金面でのサポートもあまり受けようとしない傾向にある。対照的に、儲けを求めてビジネスを始めた創業者は、その目標に合わせるために、経済的に成功するビジネスを作ろうとするので、それが投資家、従業員、顧客からの前向きな反応を呼び込む
なお、本書で「スタートアップ企業」と訳されている箇所は、カフェをはじめる、美容室を開く、税理士事務所を立ち上げるなどの「スモールビジネスの起業」、「ベンチャービジネスの創業」に置き換えるのが原文のニュアンスに近い。
2011年発行のため「スタートアップ企業」と訳されているが、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家から出資を受けて急成長を目指す、昨今の“スタートアップ”を指すのではなく、広く“起業”全般が研究対象になっている。
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才流を経営しながら考えたことや参考にした本の書評を更新していければと思っています。