経営者は執行者ではない。よき経営者の条件
今回は著名な経営学者・伊丹敬之氏の著書『よき経営者の条件』を紹介する。
昨年末に改訂版が出版された『戦略プロフェッショナル 戦略独創経営を拓く』の引用文献の引用文献からたどり着いた本だが、最近の関心事とマッチしていて参考になった。
1.印象に残ったこと
本書の中に『経営とは「他人を通して事をなす」ことである』という記述がある。
私は株式会社才流(サイル)の経営者であるが、経営者ほど目標や業務内容が定義しづらい職業も珍しいと感じている。
経営者の仕事はCEO。Chief Everything Officerであり、「なんでもやる仕事」と言われたり、「経営理念の策定・浸透が最大の仕事」と言われたり、売上2兆円を超えても販促チラシを確認してフィードバックを入れていると噂される経営者がいたり、10年間ほぼ釣りばかりしていたが年商数百億円まで会社が成長した経営者がいたり、社長業3割・データサイエンティスト業7割と公言する経営者がいたり、様々なパターンが存在する。
メルカリの創業者・山田進太郎さんは「経営者は執行者であってはならない」と語る。
経営者が忘れていけないものは、会社としての方向性をしっかりと保つことだ。それ以外には力を注がない。マーケティングや広報なども、出来る人を集めてやってもらう。目の前のオペレーションのPDCAで日々改善をおこなっていくことは重要だが、そればかり見てると小さな改善で満足してしまいがちだ。経営者は執行者であってはいけない。
中途半端な起業家になるなーーコウゾウ山田氏が語る経営者に必要な「決意と責任」
最近、自分自身の業務内容、時間の使い方に悩んでいたが、本書を読んで『経営とは「他人を通して事をなす」ことである』は前提として持つべき認識なのだと理解した。
そして、『よき経営者の条件』では、経営とは「他人を通して事をなす」ことであるが、どうしても他人任せにできない決定が2つあり、それは
どの方向へ組織が進めばいいのか、という方向性の決定
だれを実行の責任者にするか、という中核人事
だという。
先日、時価総額数千億円の企業を創った起業家から『アイデアや戦略は作るが、事業計画などは作ったことがない。創業のDay1から自分より得意な人に任せ続けてきた』『新規事業や新規拠点は責任者に適任者がいないなら立ち上げない。逆に言うと、なんとしてでも適任者を見つけることが大事』という話を聞いたが、経営理念の策定・浸透、方向性の決定、中核人事あたりを自分自身の重要業務だと捉えて、しばらく生きてみたい。
2. 抜粋とコメント
とにかく自分の頭で考え抜いてほしい(中略)考え抜くだけの時間をきちんと作ってほしい。考えるための体力を温存してほしい。考えるための思考の枠組みを自分でもつよう自己修練をしてほしい。そして、考え抜くためのもっとも重要な情報は現場にあると思って欲しい。もし、自分の頭では考えられないと思ったら、信頼できる参謀を作るべきである。
→これを読んで、毎週木曜日を考えるDayにして、インプットと思考にあてるようにした。
棟梁の大きな仕事は、人に仕事をしてもらうことにあります。(中略)木の癖が読める、腕がいい、計算ができる、これだけではだめなんですな。棟梁というからには工人に思いやりを持って接し、かつ心をまとめなければならんのです。
→本書の中で紹介されている、昭和の名大工・名棟梁として有名な西岡常一さんの言葉。現代のビジネスパーソンだと、専門的な知識があり、仕事ができて、頭が良いだけではだめなんだと。
経営者とは、人間集団である組織を動かして、社会の中に受け入れられるように事業活動を率いていく人である。
→“社会の中に受け入れられるように事業活動を率いていく”は面白い表現。
グランドデザインという設計は基本設計であり、構造設計である。決して、ディティール設計ではなく、プロセス設計でもない。大きな枠組みを提示するのが経営者の仕事
→ディティール設計、プロセス設計ではない、というのは個人的なアハ体験だった。
小さなボタンを経営者が押してしまうと、そのボタンに直接関連する現場ではすぐにそれなりの効果は出るが、小さなインパクトしか生まないだろう。それでは、大軍は動かせない。それでいて、経営者自身のエネルギーは同じだけ使ってしまう。
→肝に銘じたい。
経営を進めて行く時に大事なのは、事に当ってまず冷静に判断すること、それから情を添えることやな。この順番をちゃんとわきまえておかんと失敗するんや。
→引用されたいた松下幸之助氏の発言。情→論理ではなく、論理→情の順番であることが大切。
人の志はそもそも養成できるようなものではない。その人が、心の奥底に秘めているものである。ただし、「選ばれる」ということによって、志のポテンシャルに火がつく(中略)選ばれたことによって、自覚が生まれ、自らを鍛えようとする(中略)「エリートは、エリートという刻印を押されたときから、真にエリートとしての自覚が生まれる」
→これはたしかに。人は選ばれたり、大きな機会を与えられた後に成長する。
<関連記事>
才流を経営しながら考えたことや参考にした本の書評を更新していければと思っています。