#48 経営者が選択できる経営スタイルは限られる。ロングターム・マネジメント 短期目線の経営から長期目線の経営へ
今日は日経新聞の記事「名経営者はいつから名経営者なのか」からたどり着いた書籍『ロングターム・マネジメント』を紹介する。
偉大なことを成すには期間が必要であり、長期間やることはある種、経営の前提なので参考になることが多かった。
※長期間の大切さは#5 経営者の「飽き」問題や#31 事を成すには時間がかかる。でも書いた。
1.印象に残ったこと
長期目線経営の事例として紹介されていた街づくり企業・山万株式会社 の話が面白かった。
山万は千葉県佐倉市のユーカリが丘を開発している不動産デベロッパーだが、以下のような特色がある。
暮らす人が長期的に住み続けられるよう「成長管理型」の経営を追求
→通常は住宅を販売したら次の分譲地に移動する「分譲撤退型」住民の世代が偏らないように年間200戸しか売らない
→通常は極力早く全戸を売り切ろうとする住みやすい街を作るために3万人が参加する祭の開催、地域を走る鉄道やコミュニティバスの運行、自前の防犯・防災パトロールセンターの開設、住民の親御さんが泊まれるよう駅直結のホテルを運営、高齢者施設の開所などのソフト面も整備
→通常はハード面の整備が中心でここまでは踏み込まない年6回以上、全戸を訪問し、住民の潜在ニーズを汲み取る“エリアマネジメントグループ”という戸別訪問の専門組織を設置
→通常はアンケートを実施する程度社員の半数以上がユーカリが丘に居住
→通常はほとんど居住しない街の安定化のために収益は売上100~120億円、経常利益2億5000万~5億円で一定させる
→通常は規模拡大を目指す
顧客ニーズにとことん寄り添う形での事業展開が参考になる。特に住民のニーズを汲み取るためだけの組織があるのは衝撃だった。
そして、本書の主張は山万のような独創的な経営は、経営者が送ってきた人生とのフィットがなければ実現しない、ということ。
あなたの宿命は何か。半生を振り返り、人と違う経験・思考・行動は何か。そして、その宿命に合う事業・経営はどんなものか。これを考え抜くことが、ロングターム・マネジメントの成否をわける。とある。
山万の場合も、代表の嶋田氏が新規事業として不動産業を開始し、横須賀で宅地販売を行ったときの反省がユーカリが丘などでの街づくりに活きているという。
無事に完売したものの、すべて戸建てで短期間に売り切ったため、いずれ一斉に高齢化が訪れることは明白でした。けれど当社は分譲したら、それで終わる。若い世帯の流入を図ることもなく、高齢者施設を作るわけでもない。果たして、これで街をつくったと言えるのかと猛省し、その思いをユーカリが丘に注いだのです。
本書の中で「経営手法は人によって選択の幅が決まっている」とあるが、これはやっていてそうだなと思う。
8月で34歳になるが、30年以上も生きていると今から自分を根本的に作り変えるのは困難であり、自分の特性を活かしながらやっていくしかないことを実感する。何らかの衝撃的イベントを経て、自分が根本的に変わることはあるかもしれないが、衝撃的イベントの発生は自分ではコントロールできない。作り変えられない自分を最大限うまく活かす方法を考え続けるゲームなのだろう。
私の場合は、いろいろな情報をインプットして、それを体系化・型化することに昔から強い興味がある。そして、ビジネスにハマったきっかけもビジネスには経営戦略、ファイナンス、マーケティング、営業、法務、人事、ロジカルシンキング、プレゼンテーションなどなど領域が無数にあり、60年間学び続けても飽きなそうだなと思ったことがきっかけだ。
いろいろな領域に触れられ、それを体系化することで価値が生まれる今のビジネスモデルは結構フィットしているような気がする。
※描いているビジネスモデルは#20 才流の成長戦略における注力テーマの推移 で解説している
2. 抜粋とコメント
私たちはこれまでにたくさんの経営者に会ってきたが、間違ったことを言う社長と会ったことはほとんどない。考えていることは正しい、言っていることは正しい。それは業績絶好調の社長だけでなく、ここで紹介したような危機に陥った社長もそうだ。では、なぜ失敗する人が出てくるのか。それは、考えていること、言っていることは正しいのに、やり切れないからだ。
→面白い指摘。必要な改革や改善はわかっていても、やる気がないと改革や改善は実行されない。
先日、2019年に破産した有名子供服チェーン「マザウェイズ」の社長の取材記事を読んだが『努力してどうにかしようという気持ちよりも、もうやめたいと思う気持ちが勝ってしまったのです。』と答えていたのを思い出した。気持ち大事。
※参考:マザウェイズはなぜ破産したか?創業社長の独白
「未来が分からないから手を打てなかった」のか、「未来が分かっているのに手を打たなかった」のか、そのどちらが多いかというと圧倒的に後者である。(中略)厳しいようだが、経営戦略のミスというより、仕事の仕方を変えるのが面倒だったというほうが大きい。
→厳しい(笑)
誰かのために役に立ち、その対価を得ることで社会は回る。その価値交換スピードが速く、種類も多様で、かつサービスの出し手も受け手も双方の満足度が高いと、経済と社会は豊かになる。
→何かと批判されがちな資本主義だが、上記の理由で原理的には素晴らしいものだなと思う。経済学の実験では市場経済に組み込まれている人ほど、公平で気前が良く、無慈悲にならないことが示されている。「貢献や価値提供と対価(感情や金銭)」という法則はシンプルだが強力である。
ここで言う成長志向というのは、自分の会社が大きくなりたいという利己的な成長意欲ではなく、世の中をもっと良くしたいという利他的な成長志向である。良い商品、良いサービスを多くの人へ、というのは時間がかかるし、道中に幾多の失敗も伴うが、それが社会を良くする。
→「会社の成長は自分たちが決めるのではなく、世の中が決めてくれる」という考え方が好きで意識している。本当に世の中が求めているものを提供しているなら、世の中から「もっとほしい、もっとほしい」と求められ、結果として成長が必要になる順序になっているはず。
建設会社の業務を大きく分類すると、(1)施工、(2)施工管理、(3)事務処理の3つ。当社のIT化は、3→2の順で進めてきました。
→事務処理→本業の管理→本業、的な感じだろうか。いつかIT化やDX化を進めるときに参考になりそうなのでメモ。
・長期目線の経営は、結果が出るまでは非常識と見られることが多い。
・長期目線の経営は、短期の利益を後回しにするが、短期の利益も追求する。
・長期目線の経営は、短期の利益に振り回されない分、地域や社員の幸福度を高めやすい。
・長期目線の経営は、それを実践する経営者の信念が強い。
・長期目線の経営は、それを継続するための仕組みを構築している。
(中略)精神論で長期目線を、というのは誰でも言える。「継続するための仕組み」として組み込むことがロングターム・マネジメントである。
→ロングターム経営には掛け声だけでなく、仕組みが必要。
アイリスオーヤマも「今期の1年間はこれくらいの数字を目標にしよう」という方針は出すが、中長期の計画は立てない。「根拠の薄い計画を立てることに意味がない」と大山健太郎会長は切り捨てる。その代わりに2章で記したように、KPIとして売上高に占める新製品比率を定点観測する。アイリスオーヤマは発売後3年以内の製品を「新製品」と定め、この比率が毎年50%以上であることを、非常に重視する。(中略)山万の場合は顧客満足度調査の数値をKPIにする。
→当社だとコンテンツ発信数は重要なKPIになりそう。
「商品が売れたからといって、うれしいとは思わない。役に立たない商品だって売れるから。顧客満足の裏にあるユーザーの不満を知らずにいたら、必ず商売は先細りになる。」
→たしかに。
サービス化がさらに進み、新しい動きとして「教育化」が起きている。(中略)「お客様に教えるなんておこがましい」と感じる人は「企業が顧客に何かを気づかせる」というニュアンスで捉えて欲しい。事業に教育化の要素を組み込むと、顧客との関係も変わる。
→顧客が自ら学ぶようになっている現代、ただ単に商品を販売するだけでは足りない。
自社のリソースにこだわることが、顧客のニーズとかい離するかもしれないからである。ならば、自社が手がけていないサービスでも、顧客のためならゼロから立ち上げることが、結果として顧客満足度を高める。
→自分たちの強みに立脚するのは大切だが、その強みに顧客ニーズはあるのか、は常に自問自答すべき。
私は人間力だとか心の野球だとか、そんなことを口にする指導者のことが、へどが出るほど嫌いです。なぜかというと、昔の私がそうだったからです。(中略)野球部の監督になった当初、生徒に挨拶を徹底されたら「花巻東の野球部は礼儀がいいね」と地域の人たちから褒められて、私はいい気になってしまった。でも、それは逃げているだけでした。試合に負けても「私はいいチームをつくっている」と心の中で言い訳していたのです。
→いいチームでも、価値を提供できていなかったり、成果が出ていなければ意味がないという話。
経営スタイルというのは、経営者の人格や人生によって決定づけられる。経営者は経営手法を限られた範囲でしか選択できない。経営者の生き方が、そのままマネジメントスタイルやビジネスモデルになるのである。人生が経営スタイルを決定づける。
→当たり前だけどそうだろうな。そして、経営しながらも人格や人生は更新され続けるので、経験や学びは尊いなと。
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才流を経営しながら考えたことや参考にした本の書評を毎週1本、更新していければと思っています。