個人情報入力なしでお役立ち資料を公開し、月間5,000件ダウンロードの裏側
今日は当社でやっている「お役立ち資料の全公開(名称仮)」について紹介したい。
お役立ち資料の全公開とは
まず「お役立ち資料」とは、特定のトピックのノウハウやガイド、業界データ、調査レポートをコンテンツ化したもの。一般的でカジュアルなコンテンツを「eBook」、より専門的でエビデンスに基づくコンテンツを「ホワイトペーパー(白書)」と分類したりするが、それらを統合して「お役立ち資料」と呼ばれることが多い。
BtoBマーケティングでは、見込み客が興味・関心を持つお役立ち資料を作成し、資料を提供する代わりに見込み客の個人情報を入力してもらう施策が一般化している。
巷では「ホワイトペーパーマーケティング」、「ホワイトペーパー施策」と呼ばれたりするが、お役立ち資料で集めたリード(会社名や名前、メールアドレスなどの個人情報を取得できている見込み客)に対して、メールマガジンを送付したり、インサイドセールスから架電したり、セミナーや自社カンファレンスに誘導したりして、商談や受注につなげている企業も多いだろう。
そんな中、当社は作成したお役立ち資料を個人情報入力なしで、そのままダウンロードできる状態で公開していることで世界的に有名だ(嘘です、ごく狭いコミュニティでのみ知られています)。
例えば、最近公開した記事『【コンテンツマーケター向け】ChatGPTの使い方&プロンプトテンプレート集』では、ChatGPTのプロンプトのテンプレート集が無料かつ個人情報入力なしでダウンロードできる。
上記のように、お役立ち資料を無料かつ個人情報入力なしでダウンロードできるようにする取り組みを便宜上、「お役立ち資料の全公開」と名付けて書き進めたい。
お役立ち資料の全公開を始めた背景
この取り組みを始めたのは、お役立ち資料を個人情報入力ありで公開した場合、ダウンロードに至る確率(CV率)が1~2%程度にしかならず、壮大にもったいないなと思ったことにある。
仮にCV率が2%だとすると、お役立ち資料のページに訪れた98%の見込み客にはせっかく作った情報が届かない。
100人が訪れていたら98人に届かず、1,000人が訪れていたら980人に届かないのだ。
自分自身のユーザー体験を振り返っても、Webサイトを訪れた際「この資料は面白そうだなー」と思っても、フォームに飛ばされ、個人情報の入力が必要だと、入力の手間とその後にインサイドセールスからの架電やメール配信をオプトアウトするまでの一連の手間を考えてしまい、資料閲覧を諦めることが多かった。
であれば、個人情報の入力を促すことなく、そのままダウンロードしてもらった方がせっかく作った有益な(と信じている)情報を多くの人に届けられるのではないか、と考えたのがお役立ち資料の全公開を始めた背景だ。
お役立ち資料の全公開の成果
2年ぐらい前からやり始めた取り組みだが、現在では月間5,000件のダウンロードが起きるようになっている。
打ち合わせや飲み会の場で『才流(サイル)の営業資料のテンプレート使ってますよ!』『サービス紹介リーフレットのテンプレート使ってますよ!』と言ってもらえることも増え、月間5,000ダウンロードの威力を実感している。
上述したように世界的には無名だが、「お役立ち資料を全公開している会社」として認知も向上したように思う。
かっこよくマーケティング用語で表現すると、認知度や好意度の向上、カテゴリーエントリーポイントの増加につながっている。
他社におすすめできる施策なのか
当社がお役立ち資料を全公開していることを知った人から『成果はどうですか?』『うちも個人情報入力なしで公開した方が良いですかね?』と質問されることがある。
その時にお伝えしているのは、あまり他社に推奨できる取り組みではない、ということ。ほとんどの企業では、普通にお役立ち資料を提供する際に個人情報入力を促した方が良いだろう。
理由は2つがあるが、1つ目が「成果が読みづらい」こと。
個人情報を入力してもらい、その後、見込み客にセールス、マーケティング活動をした場合に得られる成果は予想しやすいが、個人情報入力なしで公開した場合にどれぐらいの成果が得られるのかは予想がしづらい。
いつ、どれぐらいの業績貢献があるのかを定量的に、蓋然性高く予測できない取り組みは多くの企業で社内説明ができないだろう。
当社のように非上場の、オーナー経営者が、自らの意志でやり始めない限りは、なかなかに開始も継続もしづらい取り組みではないかと思う。
2つ目の理由は「プッシュ型のコミュニケーションができない」こと。
当社のお役立ち資料は月間5,000件もダウンロードされているが、当社側からダウンロードいただいた方に連絡が取れない(笑)。
完全に受け身で、問い合わせや資料請求をしていただき、ビジネスチャンスに発展するのを祈るしかない。
プッシュ型のコミュニケーションは批判されることも多く、しない方が良いケースも多々あるのは事実だが、プッシュ型のコミュニケーションによって見込み客の態度変容が起きるのも事実だ。
個人情報を入力してもらい、メールや電話で企業側から連絡が取れるようになっていれば、商談数や受注数は増えるかもしれない。その可能性を手放すのは、多くの経営者・事業責任者にとって難しいだろう。
「成果が読みづらい」、「プッシュ型のコミュニケーションができない」の2つの理由で、お役立ち資料の全公開は基本的に推奨しないスタンスで回答することが多い。
お役立ち資料の全公開から学べること
一方で、自社以外の他社にも推奨できる視点としては「作ったすべてのコンテンツで、個人情報入力を促さなくても良いのではないか」ということ。
ホワイトペーパー施策、ホワイトペーパーマーケティングの名の下に、見込み客に毎回、個人情報入力を促すのは思考停止かもしれず、例えば、認知拡大に寄与する資料(例えば、調査コンテンツとかノウハウ紹介コンテンツ)は個人情報入力なしで多くの人に届けた方が本来の目的に適っているだろう。
逆に、見込み客とのメールや電話、商談でのコミュニケーションのきっかけとしたい資料(例えば、料金表やサービス説明資料)は、個人情報を入力いただいた方が本来の目的に適っているだろう。
デジタルマーケティングやBtoBマーケティングをやろうとなると、兎角すべての接点でリード獲得をしたくなるのが人間の性(さが)なのかもしれないが、一度冷静になって「このコンテンツの目的はなにか?」「顧客に個人情報を入力してもらった方が良いコンテンツなのか?」を見直すことは重要だろう。
偉そうに書いている私も数年前までは個人情報入力をしてもらい、お役立ち資料を提供していた。
しかしながら、ある時ふと、当社は再現性のある方法論(メソッド)を世の中に届けるために存在する会社であり、リードや商談を獲得して、売上を伸ばすためだけに存在する会社ではないなと思い至った。
当然、後者のような活動も必要ではあるが、ロマン(会社のミッションやビジョン)とソロバン(売上や利益など)の両方を実現するために、今後もさらに良質なコンテンツを、大量に公開していきたい所存だ。
<関連記事>
才流を経営しながら考えたことや参考にした本の書評を更新していければと思っています。