成長したいなら、検証回数を増やすとこから
最近ガバナンス(健全な企業運営を行う上で必要な管理体制)について学んでいて、その中で『PDCAプロフェッショナル―トヨタの現場×マッキンゼーの企画=最強の実践力』を読んだ。
素晴らしい書籍だったが、本書の中に“PDCAのCheck(結果の検証)によって経験則が蓄積され、やがてそれが「自信」につながる。自信が新しい機会に挑戦させ、能力と人望を生み出す”という趣旨の記述があった。
組織やビジネスパーソンの成長に必要な要素として、「行動量」や「意思決定の回数」「失敗の数」が重要だとする言説は多いが、Check、つまり「検証の回数」が重要だとする言説には初めて出会った。
自分自身の経験や周囲を観察すると、行動量や意思決定の回数、失敗の数よりも「検証の回数」こそが成長につながっているかもしれない、と思ったので、今回はそれについて書いてみたい。
『PDCAプロフェッショナル』の主張
実行(D)のあとに、「うまくいった」「うまくいかなかった」だけで終わらすことなく、検証(C)、あるいはシー(See)を的確に行うことができれば、成功や失敗の因果が明確になり、そして業務への理解はさらに深まるので、そのたびに次の企画(P)の精度は上がっていきます。
(中略)PDCAのAは、方法論、やり方、考え方そのものを、PDCAを廻すたびに、さらに「進化」させることを意味します。これは企業において、仕事の仕方、すなわちビジネスプロセスを進化させることであり、そして個人であれば、自身の前述のメタ知識を増やしていくことにあたります。
とある。
具体的には、実行(D)の後に結果の検証(C)を行い
実践からわかったことについて言語化を進め、より高いレベルの経験則を得る
方法論を、考え方、フレームワーク、法則、技術標準、手順書などにおいてステップアップさせ、ビジネスプロセスを進化させる
の2点が重要だという。
つまり、行動や意思決定、失敗をした“だけ”で終わらせずに、結果を検証し、次の仕事のやり方を変えるところまでがセットになって初めて、組織や個人として成長できる。
優秀な若手社員の話
この話で真っ先に思い出したのが、当社のある若手コンサルタント。
(仕事に年齢は関係ないが)若くしてお客様から厚く信頼され、プロジェクトでも着実に成果を出している。
先日、その若手コンサルタントとやり取りする中で「お客様への提案後に同席している先輩コンサルタントたちから、毎回、良かった点・改善できる点をもらうようにしていた」ことを知った。
傍から見ていて、彼の成長スピードには驚いていたが、背景には自分の行動に対するCheck(結果の検証)の仕組みがあったのだ。
そういえば、別の優秀な若手コンサルタントも定期的に「フィードバックをいただきたいです!」とSlackで連絡をくれていたことを思い出した。
他人からフィードバックをもらうのは勇気がいることだが、彼らは誰に言われるまでもなく、それをやっていた。
Good&Moreと近況報告会
また、当社はコンサルティングサービスを提供しているが、当社のクライアントワークの水準を引き上げてくれたのが、Good&Moreというアンケートだ。
プロジェクトの初月や3ヵ月後、終了時にお客様からGood(良かった点)、More(改善して欲しい点)をいただく取り組みで、3年ほど前から実施している。
お客様に記入いただいたGood&Moreのシートは、全社に共有され、コンサルタント部門の定例会議でプロジェクトの振り返りと共に口頭でも説明。改善が必要な点は、すぐにサービス提供プロセスに反映されるようになっている。
Good&Moreをやるようになってから、お客様はどのような点に満足いただいているのか、逆にどのような点を改善するとさらにご満足いただけるのかを把握できるようになった。
クライアントワークを大量にこなしたり(=行動量を増やす)、新しい案件にチャレンジしたり(=意思決定の回数を増やす)、不満足や炎上を経験する(=失敗の数が増える)だけでは企業としては成長せず、自分たちの仕事の結果を検証する機会を持つことによって、成長が促されるのを感じる。
加えて、最近では「近況共有会」と名付けるお客様との振り返り会を実施。プロジェクトが終了したお客様に、プロジェクト終了後の3~6ヵ月後にお時間をいただき、情報交換もしつつ、その後、成果が出ているかをインタビューする機会を設けるようにしている。
自分たちの提案内容が本当に成果につながったのか、Check(結果の検証)がなされる仕組みを作ったことで、(まだまだ改善余地は多々あるが)サービス品質の向上に役立てることができている。
結果の検証をしないと起きること
一方、結果を検証することなく、行動や意思決定、失敗をした“だけ”で終わらせた例として思い出すのは「瀉血(しゃけつ)」だ。
瀉血は、中世から18世紀末頃にかけて一般的だった病気の治療法で、身体から悪い血を抜くことで病気を治そうとしていた(!)。しかし、1,000年近く行われた(!)のち、いたずらに体力を消耗させる、として禁止され、19世紀以降は行われなくなっている。
身体から血を抜いたら明らかに体力が消耗し、病気の治りは遅くなりそうだが、そんな治療法が長い間行われていたのだ。
現代の常識から考えると信じられない治療法だが、1,000年近く行われたのはなぜだったのだろうか。
『失敗の科学』では、2つの理由が紹介されている。
1つ目は、瀉血を施した場合、回復した人たちからの喜びの声は届いて有効性が高まったように感じるが、瀉血後に回復しなかった人たちの声は「瀉血ですら治らない病気だったのか・・」と片付けられたり、または亡くなってしまい「死人に口なし」で届かないから。瀉血の有効性を強化する方向にしか、フィードバックループが廻らなかったといえる。
2つ目の理由は、瀉血した人たち vs 瀉血しなかった人たちで、治癒率の比較がされなかったこと。人間にはある程度、自然な回復力が備わっているため、瀉血しなかった人たちからも回復する人たちは現れる。むしろ血を抜いてない分、回復する確率は高かっただろうが、人体実験的なA/Bテストを試みる人はおらず、瀉血の有効性が疑われることがなかったのだ。
つまり、結果の検証が正しく行われなかったために、1,000年近くも効果がないどころか、身体に悪影響な治療法が続いていたのだ。
ビジネスにおける瀉血
優良企業の成功の要因を統計的に調査した『ビジネスを成功に導く「4+2」の公式』でも、巷で言われているビジネスコンセプトのほとんどが、実際には何の効果もなく、明確な戦略を立て、顧客に一定以上の価値を提供し、俊敏で実績主義の組織を作ることだけが重要だった、ということが書いてある。
例えば、
戦略開発のプロセス(組織の全レベルの社員が関わっているか、予算や計画策定の一部としてトップダウンになされるか)
アウトソーシングの活用
テクノロジーやCRM、ERPなどのシステムへの投資
外部取締役に優秀な人物を揃えること
企業変革プログラムの実施
などは業績への関連がないらしい。
また、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者、ダニエル・カーネマンは近著『NOISE 下 : 組織はなぜ判断を誤るのか?』で、企業は膨大な時間をつぎ込んで人事評価制度を作成・運用するが、正確な評価は期待できず、多くの人たちの時間がいたずらに浪費されている可能性を指摘している。
マーケティングの世界でも「ブランドが成長を続けるためには、新規ユーザーを獲得し続けるしかない」ことが近年、様々なデータから明らかになっている。
過去には「ブランドに対する熱烈なファンが売上を支えるため、ロイヤル顧客を重視し、ファンマーケティングに取り組むべき」だという言説が流行したこともあったが、実は多くのカテゴリーでノンユーザー/ライトユーザーが、売上と成長のほとんどをもたらすことが知られている。
中小規模以上のほぼ全ての会社で導入されているであろう「人事評価制度」と、ほとんどの人が同意しそうな「ロイヤル顧客の重視」や「ファンマーケティング」ですら、実は効果がないどころかマイナスなのであれば、況や他の制度や取り組みをやである。
まとめ
組織やビジネスパーソンとしての成長を考える際、行動量なのか、意思決定の回数なのか、失敗の数なのか、はたまた量なのか、質なのか。このような議論は各所で交わされてるが、Check、つまり「検証の回数」が重要だと考えるのは個人的にしっくり来る。
結果を検証しなかった瀉血が1,000年も続いてしまったように、行動や意思決定、失敗をするだけでは、次の行動や意思決定がより良いものになっていかないからだ。
検証の回数を増やし、会社として成長するためには、
結果を計測すること
例:予実管理、月次決算、SFA/CRMの導入計測した結果を見える化すること
例:ダッシュボード構築他者からのフィードバックの機会を持つこと
例:顧客満足度調査、360度評価、株主総会振り返りの機会を持つこと
例:日報、ブログ執筆、全社会議
あたりを組織に埋め込めると良いのかもしれない。あと、IPOすると上記が組織に埋め込めるメリットがあるのだなと思った。
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才流を経営しながら考えたことや参考にした本の書評を毎週1本、更新していければと思っています。