顧客分析のすすめ
今回は過去に関わった事業で再現性高く売上・利益の向上につながった「顧客分析」について紹介したい。
顧客分析とは
顧客分析とは、自社がどのような特徴を持った企業に選ばれているのか、どのような特徴を持った企業だと商談受注率やLTVが高いのかを過去の商談データ、取引データなどから分析する手法だ。
有名な話としては、顧客戦略プラットフォーム「FORCAS」が既存顧客を分析した結果、2つのセグメントに売れていることがわかり、そのセグメントに注力したところ、ARR(Annual Recurring Revenue:年間定期収益)が1年で6倍、2年で10倍になった事例がある。
既存の顧客の約50社を分析してみたところ、2つの属性に売れているとわかったんです。
具体的には、①SaaSのベンチャー企業でマーケティングオートメーションを使っている会社、②BtoBのマーケティングチームがある人材業界の会社。
これがわかったので「この2つ以外は狙わないぞ」と決めたんですね。 2018年にその方向にシフトした。すると、売上が一気に成長しました。
出典:ARR19億円を突破した「FORCAS」が語る顧客を2つに絞って売上が大きく伸びた話。ユーザー起点の「コンセプト変更」で解約率が大きく下がったワケ
私が過去に関わった顧客分析の事例を3つほど紹介する。
※個社が特定されないように数字は微妙に変えています。
コンサルティング会社での顧客分析
上図はあるコンサルティング会社で顧客分析を行ったときの数字だ。
企業規模別の商談結果を分析した結果、
26件の受注のうち、20件が売上50億以上の会社でもたらされている
売上50億未満の会社とは103件商談して6件の受注しかなく、商談受注率が6%弱と低い
傾向があった。
この場合、
売上50億以上の企業規模に営業、マーケティングのリソースを集中させる
売上50億未満の企業との商談受注率を改善できるようにサービスの訴求や内容、プライシングを見直す
が選択肢として考えられる。
Web制作会社での顧客分析
もう1つが、あるWeb制作会社の事例だ。過去に取引のあった顧客を分析をしてみると、
売上20億未満の企業との取引では、粗利率、粗利金額が少なく、顧客獲得コストなどを差し引くと案件を受注すればするほど、赤字になっていたこと
売上500億以上の企業との取引では、受注金額が大きいが、案件をコントロールする難易度が高いため原価がかさみ、実は粗利金額が少なかったこと
売上20~500億の企業との取引が、粗利率・粗利金額が高く、収益の源泉になっていること
がわかった。
この場合もやることはシンプルで
営業、マーケのリソースを売上20億~500億の企業に集中させる
売上20億未満の企業、売上500億以上の企業はお断りするか、別の制作会社を紹介してバックマージンをもらうか、制作プロセスを大幅に見直して粗利率・粗利金額を向上させる
だ。このWeb制作会社では、上記を徹底した結果、1年で数千万円ほど営業利益が改善した。
SaaS企業のケース
このケースでは、対象としていた企業を業種と企業規模で6つのセグメントに分類。
従来は全方位に営業・マーケティング活動、プロダクト開発をしていたが、あるセグメントでは顧客ニーズは強いが、顧客獲得コストが高く、ユニットエコノミクスが合わないこと。
逆にあるセグメントでは、現時点では機能が足りないが、機能開発をして顧客ニーズを満たすことによって大きな売上が見込めることなどがわかった。
そこで、セグメントごとに営業、マーケティング活動、プロダクト開発の方向性を変え、
セグメントA:機能開発の後、次年度に営業・マーケティング活動を実施
セグメントB:重点ターゲットとして営業、マーケティング活動を実施
セグメントC:重点ターゲットとして営業、マーケティング活動を実施
セグメントD:当初よりターゲット外
セグメントE:新しいサービスプランを作った後、重点ターゲットとして営業、マーケティング活動を実施
セグメントG:従来は対象としていたが、ターゲット外に
という意思決定をした。
結果として、売上・利益ともに急速に伸ばすことに成功した。
顧客分析で見るべき項目
BtoB事業で顧客分析を行うときは
課題
課題の緊急度(バーニングニーズか)
課題の重要度(Must have/Nice to have)
価値提案
提供するソリューション
CLTV(Customer LifeTime Value)
有効な獲得チャネル
商談獲得単価
商談受注率
CAC(Customer Acquisition Cost)
ユニットエコノミクス
ターゲット企業数
SAM(Serviceable Available Market)
カバレッジ率
商談件数
商談カバレッジ率
保有リード社数
リードカバレッジ率
競合企業
などの切り口を目的に応じて使い分けるのが良い。
そして、顧客分析からターゲットを決める際は
勝ちパターンを拡大する
負けパターンから撤退する
がセオリーだが、勝ちパターンを繰り返すばかりでは成長はいずれ頭打ちになるし、1つの勝ちパターンだけでは変化に弱い事業になってしまう。
負けパターンや新しいパターンの中に新しい機会がないかを常に探索し、新しい勝ちパターンを作ることも必要だ。
勝ちパターンの「深化」と新しい勝ちパターンの「探索」の両方が大事、と表現するとかっこいいかもしれない。
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才流を経営しながら考えたことや参考にした本の書評を毎週1本、更新していければと思っています。